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泥船渡河9
「でも俺、勃ちません」
「何よ、若いくせに枯れてるの?」
「恋人以外は無理なんで」
「あら、純愛。そういう子を落とすのって興奮しちゃう」
下田さんは手を止めない。性器全体をさすり、睾丸もきちんと慰める。
そして空いた手は俺の手を取り、あろうことか下田さんの谷間に導いた。
まあ、いずれ諦めるだろう。
そう思って冷めた目で見ておく。
俺のはやっぱり勃たない。
これが亜樹なら何もせずとも反応するけれど、どこからどう見ても下田さんだ。手つきも表情も体つきもまるで違う。
ここを社員の誰かと変わってあげたいと思うほどには、何の反応もない。
「颯太くん、高校生よね……」
流石に下田さんの表情が曇り始める。下田さんの自尊心を傷つけてしまっただろうか。
「普通の若い子なら、こんな美人なあなたに迫られればすぐ勃つと思いますよ」
「あなたに私は美人と写ってない?」
「下田さんはお綺麗だと思います」
下田さんは深く溜め息を吐く。苛立ちを明らかに混ぜている。
挑発した俺も俺だけど。
そしてやっと俺の上からどいた。
髪の毛をかきあげ、乱れた服を整える。
「まさかこんなに手強いとは。ただの箱入り息子じゃないのね」
「そうかもしれないですね」
九条から逃げ出さずにここまできていたら、流されていただろう。いや逃げたとしても亜樹と出会わなければ、好きにならずとも体は許していたかもしれない。
それなりのことを若いながら経験している。だからそう簡単に誘惑されるはずもない。
「でも私、狙った男一人も逃したことないの。このままじゃ諦められないわ」
「諦めないならどうするんですか」
「どこまでも追いかけちゃうかも」
「それは困ります」
「ん〜、なら一回デートして。明日」
「デート、ですか」
こういうタイプの人なら本当にストーカーにでもなってしまいそうだ。自尊心のためならどこまでもって感じで。
それがデート一回で諦めるなら、安いものだろうか。亜樹も説明したらきっとわかってくれる。
「わかりました。諦めてくれるなら」
「は〜い。じゃあ連絡先」
「……書くものありますか」
「もう、嫌そうな顔しないでよ」
連絡手段があれば何かあっても対応ができるかもしれない。
わざとらしく唇を尖らせて微笑む下田さんから紙とペンを受け取る。普段全く使わないメアドを書いていく。
「じゃあこれどうぞ」
「ありがとう。待ち合わせ場所とか時間はここに連絡するわね」
「はい」
俺ももう仏頂面を隠さずに下田さんを見送る。ひらひら手を振りながら下田さんは用具室を出て行った。
「亜樹……ごめん」
溜め息しか出てこない。
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