283 / 961

泥船渡河10

○ ● ○ 「亜樹くん、だーいすき!」 僕は決して幼女趣味ではない。 だけど僕は今、可愛い少女と腕を組み、ショッピングモールを歩いている。 そして大声の告白もされている。 なぜこうなってしまったかといえば、一時間ほど前に遡る。 --- 僕はスーパーへ行こうと町を歩いていた。 「こんにちは!」 そんな時、少女が声をかけてきた。 白い丸襟のついたグレーの水玉ワンピースを着て、少し茶色の髪の毛は垂らし、僕をくりくりの目で見つめている。 ……待って、誰? 第一印象はこれだ。 交友関係の薄い僕には同年代の友人さえ殆どいないのに、ましてこんな可愛い少女の知り合いなんているはずもない。 それにしては自信満々で僕に話しかけている。しかも僕の返事を待っている。 失礼だけど、じっと見つめてみた。 必ずどこかで接触しているんだ。 そう思って必死に記憶を辿ると、少女と白いワンピースが重なる。 「……もしかして、杏……ちゃん?」 「わ! 覚えていてくれた!」 少女、杏ちゃんはすごく嬉しそうに笑う。 あの夏の日の出来事はけっこう印象が強かった。だってお兄さんが取りにきてるのに、それを後ろから追い越して、ボールを奪っていったのだから。 そう思って見てみると、ありがとうと言ってきた時の勝ち気な色を宿す瞳がそのままだ。 「夏にサッカーしていた子だよね?」 「そう! あの頃からずっとあなたが気になっていたの! お名前教えて!」 「あ、えっと……渡来亜樹だよ」 勢いがすごい。まさにあの時、弾丸のように走っていた様子が声に変わったみたいだ。 杏ちゃんは名前を聞くと、僕の手を握った。 「亜樹くん! あたし亜樹くんが好き!」 そしてキラキラの瞳で僕に告白をしてきた。

ともだちにシェアしよう!