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泥船渡河10
○ ● ○
「亜樹くん、だーいすき!」
僕は決して幼女趣味ではない。
だけど僕は今、可愛い少女と腕を組み、ショッピングモールを歩いている。
そして大声の告白もされている。
なぜこうなってしまったかといえば、一時間ほど前に遡る。
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僕はスーパーへ行こうと町を歩いていた。
「こんにちは!」
そんな時、少女が声をかけてきた。
白い丸襟のついたグレーの水玉ワンピースを着て、少し茶色の髪の毛は垂らし、僕をくりくりの目で見つめている。
……待って、誰?
第一印象はこれだ。
交友関係の薄い僕には同年代の友人さえ殆どいないのに、ましてこんな可愛い少女の知り合いなんているはずもない。
それにしては自信満々で僕に話しかけている。しかも僕の返事を待っている。
失礼だけど、じっと見つめてみた。
必ずどこかで接触しているんだ。
そう思って必死に記憶を辿ると、少女と白いワンピースが重なる。
「……もしかして、杏……ちゃん?」
「わ! 覚えていてくれた!」
少女、杏ちゃんはすごく嬉しそうに笑う。
あの夏の日の出来事はけっこう印象が強かった。だってお兄さんが取りにきてるのに、それを後ろから追い越して、ボールを奪っていったのだから。
そう思って見てみると、ありがとうと言ってきた時の勝ち気な色を宿す瞳がそのままだ。
「夏にサッカーしていた子だよね?」
「そう! あの頃からずっとあなたが気になっていたの! お名前教えて!」
「あ、えっと……渡来亜樹だよ」
勢いがすごい。まさにあの時、弾丸のように走っていた様子が声に変わったみたいだ。
杏ちゃんは名前を聞くと、僕の手を握った。
「亜樹くん! あたし亜樹くんが好き!」
そしてキラキラの瞳で僕に告白をしてきた。
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