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泥船渡河11

「えーっと……その……」 「あたし同年代の男の子って子供っぽくて相手にしてらんない! って感じに思っていたの。それであの日、亜樹くんと出会って、びびっときた!」 「そうなんだ……」 年頃の女の子によくあるやつか。男子って子供っぽーいとか小学生女子が言っているイメージはある。 僕のどこにそんなびびっとくる要素があったのかはわからないけれど、歳上だから大人には見えたのだろう。あの時無理にボールを取りにきたのは、僕の顔とかを確かめるためだったのかもしれない。 「だからあたしと付き合ってもらえませんか?」 「うんと、杏ちゃん、あのね……」 恋をしてみたいお年頃とかもあるんだろう。でも理由はどうあれ杏ちゃんなりに僕のことを想っていてくれているんだ。 だからここは恋人がいるとちゃんと断らなければならない。 しかし逡巡のうちに杏ちゃんは次の行動に出た。僕の手を離して、自分の両手をパンッと鳴らす。 「違うわ! まずはデートからね! 行こう!」 「あっ、杏ちゃん……」 断る間もなく腕を引かれ、杏ちゃんの行きたい場所に向かわされてしまう。 こんな小さい子だから無理やり腕を振り払うとか、止めるとかできないし………… 持ち前の臆病を見事に発揮して、うまく断れないままショッピングモールにやってきてしまった。 ニコニコ嬉しそうに笑う杏ちゃんと、人でごった返す日曜日のモールに入っていく。 「亜樹くん、腕組もー!」 そう言われて半ば強引に腕を組まれる。 「亜樹くん、だーいすき!」 そして今に至るのだ。 こんなところ颯太に見られたらどうしよう。先週女性に案内してもらったと言われて、悲しい思いをしたばかりなのに。今度は僕が同じことをしてしまっている。 ……いや、でも相手は小学生だ。それならそういうのにカウントされないんじゃ…… いやいや、告白されているし、デートと言われたし。 それに颯太が正直に話してくれたんだ。誠意には誠意で返さなきゃ。 「あたし一緒に行きたいところあるの!」 「うん。行こうか」 杏ちゃんはすごく楽しそうだ。とりあえずこのデートが終わるまで好きにさせてあげよう。その後にちゃんと伝えればいい。 杏ちゃんの好きなように歩いていく。 元気な彼女の話にうんうんと頷く。 そしてモール内を歩きながら、ふと顔を上げた。 「あっ……」 「あ……」 すると、目の前には、まさかの人が、いて。 その姿は、僕の愛しい人と、瓜二つで。 こうして僕と颯太は、かたや女の子、かたやお姉さんと腕を組みながら、ショッピングモールのど真ん中で出会ったのだった。

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