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邂逅と厭忌は紙一重1
「亜樹くん、知り合い?」
思わず立ち止まった僕ら。杏ちゃんが不思議そうにこちらを見る。
向こうからも女性が颯太くんの知ってる子?って問いかける声が聞こえてくる。
また視線を上げて、颯太と目が合う。
その瞬間なぜか、同じ状況に追い込まれている、と自然に察した。
そして、
「友達!」
「友達!」
僕と颯太は同時に言った。
すると女性がふっと微笑む。
「あら、颯太くんのお友達なのね。私は下田って言います。あなたは?」
「えっと……渡来です」
そうか、この人が先週言っていた下田さんなんだ。
下田さんは上から下まで僕をじろじろ見ている。値踏みされているみたいで怖い。すごく美人で素敵な笑顔を向けているけど、僕に向ける視線は冷たい。
「よろしくね、渡来くん」
「よ、よろしくお願いします……」
「そちらの子はー……妹さん?」
「あ、いえ……友達の杏ちゃんです」
「そう」
知り合いというのも冷たい気がするから、とりあえず友達と答えた。杏ちゃんはそれに対して僕にだけ聞こえるよう「まだ、ね」と言ってくる。
こんな小さな女の子が友達。下田さんはそれを不思議に思ったかもしれない。
けれど彼女は表情を変えずに返事をした。この人、表情から感情が全然読めない。
「ねぇ、せっかくだし四人でお茶しましょう」
「あの、下田さん……」
「いいじゃない。颯太くん」
まさかの提案に困った顔をする颯太。下田さんは豊かな胸を颯太の腕に押しつけて、にこっと笑いながら顔を覗く。
お互い買い物中だろうし、このまま別れた方が絶対いいと思うのだけど……。
下田さんは何を企んでいるのだろう。いや、企んでいるなんて、早計だろうか。
「さ、こっち、こっち。おすすめのとこあるの」
「……っ」
颯太の腕を引き、空いた手は僕の手を掴んで軽く引く。
はたから見れば下田さんが案内をしているだけ。でも、あの、すごく、痛い。
掴む手の力が、強い。
もしかして僕が恋人だって……ばれている?
男が恋人なんて、簡単には考えないと思うのだけど……。
何とも言えない不安を抱えたまま、下田さんの言うおすすめのところに向かっていった。
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