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邂逅と厭忌は紙一重2
下田さんが案内したのは落ち着いた雰囲気のカフェだった。店内は暗めの茶色で揃えられており、コーヒー豆の香りが微かに漂う。
四人がけの席に僕と杏ちゃん、颯太と下田さんがそれぞれ並んで座る。
かなり違和感のある光景だ。
とりあえず僕と颯太がカフェオレ、下田さんはブラックコーヒー、杏ちゃんはミルクティーを頼んだ。
だけどとてもじゃないが『飲み物を片手に談笑』の気分ではない。
何より杏ちゃんが不憫だ。杏ちゃんなりにこの空気を察して何も言わないでいてくれるが、決して居心地がいいとは言えないだろう。
「渡来くんは颯太くんのお友達なのよね?」
「はい」
「よかった。颯太くんのこと色々教えてほしいな〜」
沈黙に包まれていた場を、まず下田さんが変える。
綺麗な笑顔に淡いピンクの口紅が映えていた。本当に美しい人だ。
だけど所々悪意というか、友達を強調してくるというか、そんな部分がある。明らかに僕を敵視している。
「聞いてどうするんですか。今日だけでしょう」
「あら、冷たいのね。颯太くんて」
颯太も無理やり付き合わされているのだろうけど、何を持ち出されたのだろう。僕みたいに断れないタイプではないだろうし。
今日だけ、ということは、今日一日デートをしてくれたら関係は終わり、とかだろうか。
まあそれはあとで聞けばいい。
「ねぇ、渡来くん。颯太くんって学校ではどんな感じ? やっぱりモテるの?」
「学校では普通の男子高生って感じですかね。モテるかは男子校なので何とも言えないです」
「ふぅ〜ん。あ、そもそも颯太くんとはいつ知り合ったの?」
「今年ですね」
「あら、意外と短い」
わかりやすい挑発だ。
露骨な敵意は正直言って怖い。人に慣れたとはいえ臆病は変わっていないし。
でも負けたくない。恐怖を隠して冷めた笑顔を浮かべ、対立姿勢を示す。
だからと言って挑発に乗るつもりはないけれど。颯太の情報をやるつもりはない。颯太のことを殆ど知らないままでいればいい。
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