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邂逅と厭忌は紙一重4

ほんの少しだけ感心していると、またもや下田さんが僕の方を見る。 「ねぇ、私、渡来くんとちょっと二人きりで話したいかも」 「えっ……」 「下田さん、それは……」 どうしよう。絶対これは危ない。 こういう裏表の激しそうな女性って、ライバルと二人きりになった途端怖くなるんだ。 「あらなぁに? いいお友達になれそうだから話したいってだけよ?」 「それはこの場でもいいんじゃないですか?」 「でも恋する者として颯太くんの知り合いにこっそり聞いてみたいの。杏ちゃんならこの気持ち、わかるかしら?」 「うーん、確かにわかるかも! だってあたし亜樹くんが大好きだし!」 「そうよねぇ」 颯太と僕は顔を見合わせる。少女を利用するなんて。 口調からして言っていることが全て本当とは思えない。もうこれは僕が颯太の恋人だと気づいていることは明白だ。 「じゃあ行きましょうか」 下田さんは颯爽と席を立ち、僕の手を掴んだ。もちろんその力は強い。 これは逃げられない。腹をくくるしかないか。 「……はい」 「颯太くんと杏ちゃんは二人でお話ししてて」 「わかった!」 「……わかりました」 僕はなす術もなく腕を引かれていく。颯太の横を通る時、前みたいに手の甲が触れ合った。 怖かったけど、そのお陰で元気が出る。 下田さんはそのままカフェを出てしまった。席に人が残っていることに気づいているのか、店員は何も言わなかった。 そしてぐいぐい腕を引かれてひと気のないトイレにやってくる。障がい者用の大きいトイレに連れ込まれた。 スライド式のドアを下田さんが閉め、ガチャッという鍵の音。 次の瞬間、胸ぐらを掴まれ壁に押し付けられた。 「渡来くんって颯太くんの恋人、でしょ?」 行動と口調が合っていない。 本来なら僕と同じくらいの身長のはずなのに、ヒールのせいで僕が見下ろされる。 どちらの要素も恐怖を煽る。 「……気づいていたんですね」 「ほら、私って見ての通り今まで何人もの男を惚れさせてきたから。狙ってる人の恋人ってなんとなーくわかるのよね」 「……さすが」 「まさか男だなんて思わなかったけど」 首元が苦しい。 たぶんこの姿は颯太も知らないのだろう。様々な男をたぶらかしている人、ってところまでだろうな、知っているのは。 本当は思考が停止しそうなほど、こんな状況に慣れていない。犯されそうになっている時とは訳が違う。 だけど懸命に頭を回して、この人に負けないような答えを考える。 下田さんは依然として笑っている。そしてその目がスッと細められた。 「単刀直入に言うわ。颯太くんと別れて」 「…………」 「私ね、落とせなかった男、颯太くんが初めてなの。恋人がいるって言われたから、今日デートしてくれたら諦めるって言ってあったのよね。でも無理。だって男に負けたとか、最悪」 眉毛を大きく動かしながら、まるで演技するかのように下田さんは喋る。見た目だけならとても綺麗なお姉さんなのに。

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