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邂逅と厭忌は紙一重6

○ ● ○ 亜樹は大丈夫だろうか。変なことをされていないといいのだけど。 目の前のグラスを見つめ、可愛い恋人の姿を思い浮かべる。 流石に暴力とかはないだろうけど、下田さんは気迫がすごいから。亜樹が怯えていたらどうしよう。想像ができてしまう。 まあ、下田さんを挑発するくらいには喋れていたのはよかった。心の中では怖がっていたかもしれないから、家に帰ったらちゃんと甘やかさないと。 そしてそのまま家に帰った後のことに思考が引っ張られそうになった。 「ねぇ、お兄さん!」 だけどそれを引き戻す少女の声。 「なに? 杏ちゃん」と返事をして彼女を見る。杏ちゃんは瞳を爛々と光らせて俺を見ている。 歳上ばかりなのにこの子は全く臆さない。おませさんでお喋りが好きで。故に亜樹はずるずるここまで来てしまったんだろう。 それに下田さんみたいなタイプと違って、この子に悪気はない。好きな人に自分なりにアタックしているだけだ。それなのに冷たくあしらうというのもためらわれるだろう。 「お兄さんもかっこいいね」 「そう? ありがとう」 「でもかっこいいだけじゃ好かれないのよ」 「そうなんだ?」 杏ちゃんは俺に向かって人差し指を立てる。語調の可愛い響きが少し減っていた。 まさかこの歳から使い分けているのだろうか。小学生でも女は女のようだ。将来、下田さんみたいにならないといいが……。 「亜樹くんみたいにかっこいい要素以外に、優しさとか可愛さとかも持っていなきゃ」 「亜樹は杏ちゃんからしたらかっこいいんだ」 「うん! 大人の男の人って感じなの。すごくかっこいい」 「そっか」 かっこいいなんて言われたら亜樹は喜ぶだろう。同年代からは可愛いばかりだし。 目の前の杏ちゃんは好きな人のことを話せて嬉しそうだ。 これで相手が亜樹じゃなかったら可愛い女の子で完結するのに。 俺はこんな小さい子にすら嫉妬してしまうのだから、本当に大人気ない。嫉妬のせいで文化祭では苦い思いをしたくせに。 「お兄さんは亜樹くんのお友達でしょ?」 「うん。そうだよ」 「じゃあどんなタイプが好きなのかな?」 「かっこいい人だと思うよ」 「そうなの! じゃあ私頑張って大人っぽくならなきゃ」 返答をしたあと"しまった"と思い、杏ちゃんの返事を聞いて後悔が募る。 亜樹が言った時の状況ならまだしも、子供相手に俺はなに意地を張っているのだろう。タイプなんて確立されていないだろうから、嘘を言っているかもしれないし。 「ねぇねぇ、じゃあさーー……」 杏ちゃんがまた質問を始める。 下田さんを相手にするよりある意味疲れるかもと思いつつ、俺は笑顔で対応した。

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