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邂逅と厭忌は紙一重9
「ここ! ここに来たかったの」
杏ちゃんが次に行った場所は雑貨屋。リュックやポーチ、アクセサリーなど、女の子のための品々が並んでいる。
服屋もそうだが、いかにも女の子な店って、少し躊躇ってしまう。杏ちゃんは構わず入っていくから、僕もついていくが。
杏ちゃんは中に入るとポーチを見てみたり、カバンを見たり、そして僕に見せて話しかけたりして店を回っていく。
そしてアクセサリーのコーナーへ来た。
「前髪伸ばそうとしているからね、こういうの欲しいんだ〜」
そう言って杏ちゃんはパッチンどめを手に取る。花のモチーフが付いたものだったり、動物がついたものだったり。
杏ちゃんの前髪はまだ眉の上だ。
棚に備え付けの鏡を見ながら少し前髪を分け、首を捻り、今度は他の種類を手に取る。
「亜樹くん、これどう?」
「可愛いよ。さっきのはかっこいい感じだったよね。僕は今の方が杏ちゃんに似合うと思う」
「ありがと!」
そして時々振り返って僕に問いかける。ちゃんと返事をすると笑顔になって、また鏡を見る。
小学生の女の子にとっても、オシャレは大事なものなのだろう。
色々悩んで選び抜いている姿は見ていて可愛いと思う。だから自然と髪留めも見ていて、杏ちゃんはそのことも嬉しいようだった。
「これにしようかな〜。あとね、男の子とお揃いなのも憧れなんだ!」
「男も?」
「亜樹くん顔見せて」
杏ちゃんはようやく決めたパッチンどめを一旦置くと、今度はピンを手に取る。金色で飾りは付いていないシンプルで細いピンだ。
僕は言われた通り杏ちゃんに顔を向ける。
小さな手が僕の顔の横に伸びてきた。
「はい! 鏡のぞいてみて!」
髪の毛を少し引かれる感覚。ちょこちょこピンをずらしてから、杏ちゃんは僕を鏡に誘導した。
鏡を覗く。
耳の横に金色のピンがバツの形でつけられていた。普段はおろしたままだから、こうすると結構印象が違う。
少しだけかっこよく見えなくもない、かな……
「これはこれでありかも」
「でしょ!」
思わず微笑んで杏ちゃんを見ると、同じようにバツの形でピンをつけていた。
よく似合っている。
確かに好きな人とお揃いって嬉しい。僕も颯太とお揃いだと気分が上がる。
「まあでもこれは買わないけどね」
「……そっか、そうだね」
しかし杏ちゃんはちゃんとしていた。自分のと僕のピンを外して、元に戻す。
そして最初に選んだパッチンどめだけを購入した。
「他に行きたいところある?」
「ううん! すごく楽しかった! 満足!」
二人並んで店を出る。僕の左手には袋が二つ。右手には杏ちゃんの小さな手。
杏ちゃんはキラキラの笑顔で頷いてくれた。
「じゃあさ、初めて会った公園にでも行かない?」
「公園? いいよ!」
夏と違って日が短いから余り遅くならないようにしなければいけない。でもこれだけは今日、話すべきだ。
ご機嫌な杏ちゃんを連れて歩き出した。
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