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邂逅と厭忌は紙一重11

「……亜樹くん」 「杏ちゃん?」 しばらく泣き声を聞きづつけていると、鼻声の杏ちゃんが立ち上がる。鎖を離す音が聞こえ、僕の前に杏ちゃんが立った。 「あたし諦めないよ!」 「……え?」 「今の時代、十歳以上歳の離れたカップルだっているんだもん! だからあたしと亜樹くんも全然平気!」 杏ちゃんは僕を見つめて、元気な声で言った。その鼻や目は夕日でより赤い。 「あたしね、もっと大人っぽくなって、かっこいい亜樹くんに釣り合う女になるから! 恋人を越してみせるから! 待っててね!」 「杏ちゃん……」 「じゃあもう帰るよ! ばいばい、亜樹くん! 今日はありがとう!」 杏ちゃんはキラキラの笑顔を見せて、大きく手を振った。ワンピースがふわっとはためく。 「杏ちゃん、僕、待つよ! またね!」 「亜樹くん、ひどーい!」 杏ちゃんは笑い声を上げながら公園を出て行った。 本当に酷い人間だ。けど勝手に口が動いてしまった。どっちが大人なんだか。杏ちゃんの方がよっぽど立派だ。 こんな素敵な子に好かれるなんて僕は幸運な男かもしれない。 項垂れているとポケットのスマホが振動する。取り出して見ると『終わったら、俺の家に来て』って颯太からのメッセージ。 よかった。颯太はちゃんと下田さんを帰したんだ。 『うん。わかった』って送ってスマホをしまう。 立ち上がって、歩いて、公園を出て、颯太の家に、行かなきゃ。 でも動けない。 言いようのない悲しさとか罪悪感とか、そんなものに苛まれて、どうしても動く気が起きなかった。 僕はブランコに腰かけたままずっと俯いていた。その間に夕日は沈み、夜が顔を出し、星が空に輝き始める。 別に僕は子供じゃないし、いいんだ。真っ暗の中、動かなくても。 「亜樹」 急に僕の体に影ができる。じゃりって砂を踏む音。 「……颯太」 「やっと見つけた。帰ろっか」 「……うん」 目の前には颯太がいる。 とても大事で、大好きなひと。 今は僕だけのために微笑んでいる。 颯太は優しく僕の手を掴んで立ち上がらせた。 抱きつきたい気持ちを押しとどめて、その腕に自分の腕を絡める。 「歩きづらいなぁ」 「うん」 「可愛いね」 「うん」 そうして颯太と僕はゆっくり歩き出す。

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