298 / 961

ヘーゼルナッツの鋭利1

翌月曜日、僕と颯太はまたもや同じカフェの前に来ていた。 普通に授業を受けて、わざわざ私服に着替えてからやってきた。 「お待たせしたかしら?」 「……下田さん」 「入りましょ?」 二人で待っていると、スーツ姿の下田さんが片手を上げて姿をあらわす。 颯太は僕を片側に隠し、下田さんの横に立つ。それに下田さんは可笑しそうに笑ってから中に入った。 そして向かうのはなぜか窓に面したカウンター席。 何かするには都合が悪いと思うのだけど……。普通に話し合う気なのだろうか。 「渡来くんはこっちに座ったら」 「やめてください」 「颯太くんは心が狭いのね」 「そういうわけではないです」 下田さんの隣にされそうだった僕を颯太が引っ張る。それから下田さんから届かない颯太の隣に座る。 話をするのは颯太と下田さんだから、僕はドキドキしつつ二人を見守るしかない。 「単刀直入に言います。諦めてください」 「嫌よ。男に負けたなんて許せない」 「結局のところ下田さんは落とす落とさないが大事なんですね」 僕からは颯太の顔は見えない。ただ静かな声が聞こえるだけだ。 一方で下田さんの顔はよく見えて、その顔が歪むのがよくわかる。きっと颯太に冷めた目で見つめられたのだろう。 これ以上大人気ないところを見せたくない。でも引き際が見つからないのかもしれない。 もしくは本当にプライドが許さないだけか。 「そもそもどうして男なの? 世間から気持ち悪いと思われることも、反感を買うこともわかりきっているでしょう?」 「周りの反応を気にしているようじゃ本当の愛なんて見つけられないと思います」 「……なによ、子供のくせに」 「それなりの経験はしているので」 世間の反感。 その言葉に少し反応してしまう。 いくら周りを気にしまいとしても、またこんなことを言われたら、僕はきっと傷ついてしまう。そんな自分が嫌だ。堂々とした颯太に並べていないようで。 するりと手が何かに包まれる。視線を下げるとそれは颯太の手だった。 指が僕の手の甲を撫でる。 顔を上げても颯太は僕に背を向けたままだ。 「もう一度言います。諦めてください」 「……無理よ」 「でも俺は絶対落とせませんよ」 「余裕ねぇ」 「最後だから言いますが、俺は下田さんみたいなうわべを飾ってばかりの中身が空っぽな人は好きになれないです」 頬杖をついて足を組んでいた下田さんの目元にしわが寄る。頬杖が拳に変わって、真正面から颯太を睨んだ。 殴られやしないだろうか。昨日のことを思い出す。冷たい目で何度もぶってきた下田さん。

ともだちにシェアしよう!