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ヘーゼルナッツの鋭利2

颯太が手に力を入れる。 そうだった。今は颯太がいる。だから、大丈夫。 「だいたいっ……!」 僕が一安心している間に下田さんは怒りの色で顔を埋める。 「こんなやつのどこがいいの? 地味で、可愛くもなければ、綺麗でもない。かっこよくもない。臆病で、いいところなんか一つもないのに」 ズタボロにされたプライドは下田さんに次々本心を吐き出させる。 昨日も悪口は言われた。でも改めて突きつけられると、僕は全然いいところないんだって凹む。颯太を好きな気持ちだけだ、誇れるのは。 颯太はただ僕の手を握る。 きっと下田さんに吐き出させるだけ吐き出させるつもりなんだ。確かにそうした方が下田さんは落ち着くだろう。 僕は平気だって握り返す。諦めてもらえるならこれくらい安いもの。 「私に責められたら泣いちゃって、ぶたれたら震えちゃって。こんな、こんな弱虫なのにっ……」 「今なんて言った」 下田さんは目を見開いて、笑って、まだ続ける。けれどそれを止めたのは低い声。 下田さんだけでなく、僕まで体を震わせてしまう。だって怒りを無理やり押さえつけたような低い声、こんな颯太、知らない。 颯太は手を伸ばして下田さんの手首を掴む。下田さんが痛そうに顔をしかめる。 「亜樹を泣かせて、ぶったんだ」 「……な、なによ。少し怯えさせただけよ」 「まさかそこまでやるとは思ってなかった。穏便に済ませようと思っていたのに」 ギリギリと掴む手に力が入っていき、下田さんの手首に颯太の指が食い込む。下田さんの口から痛みを堪える声が漏れた。 「亜樹を傷つける人間は誰だろうと許さない。もしまた俺たちに近づくようなら、次は覚悟しておけ」 下田さんが唇を噛む。それでも悔しさ以上に怯えが顔に見えた。 颯太は言い切ると僕の手を優しく引いてカフェを出た。

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