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ヘーゼルナッツの鋭利3
「颯太……颯太……!」
颯太はカフェを出て、モールを出た後も、何も喋らない。そのままずんずん進んでいって、どこに行くかも教えてくれない。
どうしよう、怒っている?
僕が下田さんにされたことを黙っていたから、怒ったんだろうか。それとも情けない僕に苛ついた?
そう思うと、怖くて、怖くて、涙が滲んでしまう。何より颯太に嫌われるのが、嫌だ。
「そうたぁ……」
「……っ、亜樹、ごめん」
そんなつもりはなかったのに、声が震えてしまった。するとやっと颯太が声を上げる。
僕の手を離して顔を覗いてくる。
「泣かないで」
「……泣いてないよ」
「嘘つき。ほら、家入ろう?」
「へ?」
顔を上げるといつの間にか颯太の家についていた。ぐるぐる考えて周りなんか見えていなかった。
颯太に促されて家に入る。今度はちゃんと横に並んでくれる。
肩を抱かれて、リビングを素通りして颯太の部屋へ。パタンッというドアの音。
「んっ」
次の瞬間にはキスをされていた。口に何回かして、それから頬に移動する。左右の頬を労わるように優しく唇を当てる。
「颯太……くすぐったい」
「ごめん。亜樹を守れなかった自分に苛ついた」
「そんなことない。下田さんに言い切った時、嬉しかったよ」
「手遅れだったけどね」
颯太は自嘲してしまう。
そんなことないのにな。
確かに怖かったけど、そんなの颯太の言葉で忘れてしまった。寧ろ二人きりの時に颯太と別れないってはっきり言えてよかったと思えるくらい。
ハッといい案を思いついて、颯太の手を引いていく。
恥ずかしい。でも颯太は僕を守ってくれた。だからたまに、たまには、こういうことも、しようかなって。
「ほら、ダーイブ」
「……亜樹」
颯太と一緒にベットにダイブする。今度は僕が下で、颯太が上。いつもの位置だ。
下から颯太を見上げる。
「……うんと優しくして」
「やっぱ敵わないな」
ぎゅっと目を瞑って颯太に自分から唇を寄せる。颯太の口から溜め息が漏れて、僕の体に優しく手が伸びてきた。
お願い通り、うんと優しく、うんと甘く、抱いてくれた。
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