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メイド冥土3

「三枝さん」 「あ、はい」 颯太は僕の紹介が終わると去ってしまった。ちなみに今日明日は九条にいるという。何かあれば部屋に来てと言い残して行った。 一人残された僕は佐藤さんに呼ばれる。 もう既に他のメイドの方々はそれぞれの仕事に行った。メイドの控え室にいるのは僕と佐藤さんだけだ。 「渡来さま、なんですよね?」 「えっ……佐藤さん……?」 「颯太さまから事前に聞きました」 「そうなんですかっ……」 佐藤さんがいるの意味はこれか。何から何まで教えてくれないんだから。これくらい教えてくれてもいいのに。 でも佐藤さんが僕に気づいているなら安心だ。 「はい。その方が何かと都合が良いだろうと。ですが今日明日は三枝さんとして接しますね」 「はい。よろしくお願いします」 男だしメイドのこともわからない僕。あくまで三枝美守だけど、渡来亜樹と知っているなら何かとサポートはしやすいのだろう。 笑顔で頷くと、佐藤さんも頷き返す。 そして次の瞬間、何かが変わった……気がする。 「では三枝さん。今日の仕事の説明をします」 「はい」 「海山さんの代わりなので、今日は二つやってもらいます。一つは一、二階の清掃。二つ目は食事の際の給仕です」 「はい。わかりました」 依然として表情は柔らかいけれど、声音は厳しい。これが仕事をする佐藤さんなんだ。 こういうのって、かっこいいな。 「夕食の席には俊憲さまもいるので気をつけてください」 「あっ、はい」 すぐあとに茶目っ気のある笑顔を作る。 佐藤さんはそこまで聞いているのか。いや、そうしておかないと危険性が高まる。 「では行きましょう」 「はい」 佐藤さんと並んで控え室を出る。 控え室は一階の端にある。そこから階段を登って二階に行った。 二階と言えば颯太の部屋のある階だ。もしかしたら颯太に会えたりして。 余計な考えを頭から振り払い、顔を巡らせてみる。内側から見るのは初めてだ。 深い茶色で統一された廊下には、両側にずらりとドアが並んでいる。 「この階は颯太さまと柊さまのお部屋があります。それ以外の部屋は基本的に無人です。ですがいつでも使えるように掃除は怠りません」 「はい」 佐藤さんが二階の一番端の部屋の前に立つ。そしてドアを開けた。 そして廊下に置いてある棚からコードなしの掃除機とはたき、雑巾等を取り出した。それを僕に渡す。 「とりあえずこの部屋を掃除してみてください。わたくしは一旦廊下の清掃をしていますから、終わったら声をかけてください」 「わかりました」 佐藤さんと別れ、僕は部屋に入った。

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