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メイド冥土5
「あー……」
くたびれた状態で部屋を出る。とりあえず七部屋は終わった。あとは柊先輩と颯太の部屋。それから一階……。
これ一日で終わるのだろうか。
「そんな低い声いけませんよ」
「……っ!」
急な声に振り返る。
佐藤さんが笑顔で背後に立っていた。足音が全くしなかった。九条のメイドって本当にすごい。
「渡来さまの場合ならハスキーな女声と言えば通じるとは思いますが」
「あ、なんか、ごめんなさい……」
「謝らないでくださいな」
「それであの、何か……」
「そろそろ昼食を取りましょう」
「もうそんな時間ですか……」
「ご苦労様です、三枝さん」
夢中でお腹が減ったのも気づかなかった。言われて初めて空腹を感じる。
佐藤さんは楽しそうに笑うと僕を連れ立って一階に行った。そしてまたメイドの控え室に入っていく。
控え室とはいえ中は広いので、窓の傍にテーブルが置いてあった。
「昼食のメニューは颯太さまや明恵さまと同じです。手が空いた者から自分で盛り付けてここで食べます。厨房でそのまま食べてしまう方もいます」
「そうなんですね……」
テーブルにはもう昼食が用意してあった。メニュー数の多いちゃんとした食事だ。
きっと今日は佐藤さんが僕の分まで用意してくれたんだろう。
控え室には僕と佐藤さん以外いない。二人で向かい合って座った。
手を合わせたあと、一口食べる。
「美味しい……」
「毎日これを食べられるなんて、わたくしたちは幸運なのかもしれません」
「でも掃除だけでも結構大変ですね」
どの料理も味が抜群によかった。僕としては颯太の手料理が一番好き、だけど……これもすごく美味しい。
疲れが吹き飛ぶ感じ。ただ掃除はそれに見合うくらいの過酷さだ。
「そうですね。怠るわけにはいきませんから。あとどれくらいですか?」
「あと十二部屋ですね……」
「慣れればどんどん早くなりますよ。それに三枝さんは元がいいですから」
「そんな……掃除は多少慣れてるだけですよ」
小さい頃からの習慣。母さんの代わりにやらなきゃって頑張ってきたから。
でもこうやって褒めてもらえると嬉しい。
午後も頑張れそうだ。午後は颯太の部屋も掃除するし、会えるかもしれない。
「あ、佐藤さん」
「はい?」
「颯太の部屋ってどうしたら……」
会える、会えないの問題ではない。そもそも部屋の主がいるのに、その目の前で掃除するというのはどうなんだ。
「ああ、おそらくしなくていいかと。ですがご本人がいるので、確認はしてください」
「はい」
「あと念のため、この家の中では颯太さまとお呼びした方がいいかと……」
「そっか……そうですよね。わかりました」
颯太さま、なんて違和感がある。少し恥ずかしい。でも、バレないために。
その後もちょこちょこ会話をしながら昼食をたいらげた。
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