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メイド冥土6
昼食を終えたらまず柊先輩の部屋に向かった。颯太とは反対の角部屋。
ドキドキしながら部屋を開けてみる。
……中は普通だった。
いや、そりゃ普通だろうけど。
ベッドにクローゼットに棚にテレビに机に……。
無人の部屋と色や装飾は違う。ちゃんと人の住んでいる部屋だけど、やっぱり柊先輩の部屋って感じ。全体的にシンプルだ。
ふるふる首を振る。
人様の部屋をそんなじろじろ観察するなんていけないこと。
改めて掃除を開始する。
内容は同じだ。はたきに掃除機に雑巾にしわ伸ばし。棚の中も申し訳ないが掃除をした。服が少しだけ残っていた。
そして掃除を終えて、柊先輩の部屋を出る。次に向かうのは颯太の部屋だ。
コンコンッてノックをする。
「どうぞー」
失礼しますと言うか迷って、結局照れ臭くなって何も言わずに入った。
颯太はベッドに寝転んで本を読んでいた。
「あれ? 亜樹だ」
「掃除した方がいいのか……聞きにきたよ」
「あー、今日も明日もいいや」
「……わかった」
僕だと認識した途端、ふわっと笑う颯太から目をそらす。
なんでメイドなのって文句を言いたいけれど、この格好の手前、躊躇われる。そもそも颯太の笑顔を見たら、怒りが吹き飛んでしまいそうだ。
「メイド服似合ってるね」
「に、似合ってない……」
「歯切れ悪いね。怒ってる?」
「いや、その……」
複雑な僕と違って颯太はご機嫌な様子だった。九条の中で僕に会えるのが嬉しいのか、メイド服だからなのか。
怒ってると聞きつつ悪びれる様子もないし。仕事が終わって、これを脱いだら、ちゃんと文句言うんだ。
密かに決意して颯太の部屋を出ようとした時だ。
「亜樹、ちょっとおいで」
「え?」
颯太がベッドサイドに本を置いて手招きする。
何か用でもあるのだろうか。
「わっ!」
不思議に思いつつ傍へ行くと、腕を引かれてしまう。なす術もなく僕は颯太の上にのしかかってしまった。
「颯太、何してっ……んっ」
起き上がろうとすれば無理やり唇を合わせられる。
仕事中で、僕は今メイドで、それなのに颯太とこんなことして、誰かに見られたら。
わかっているのに、気持ちよくて抵抗できない。
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