310 / 961
メイド冥土10
「二日間だけ働く人か?」
「……あ、はい。そうです。お世話になります」
「そうか。あまり緊張しなくてもいいからな」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
肩を撫で下ろして辞去する。
多少の早足は勘弁してほしい。厨房に無事逃げ切ると息が漏れた。
「大丈夫ですか? 三枝さん」
すると後ろからついてきた相笠さんに笑われてしまう。
「いや、緊張してしまって……」
「そうですよね。いきなり俊憲さまなんて」
「はい……」
「一旦仕事も終わったことですし、食事にしましょう」
「そうですね」
相笠さんの裏表のない笑顔に癒やされる。
颯太たちと同じメニューの食事をよそって、そのまま中で食べた。
それっていいのだろうかって佐藤さんに言われた時は思ったけど、控え室と厨房を往復するのは確かに大変だ。
しかも厨房内にも小さなテーブルと椅子がある。だから別におかしなことでもないようだ。
食べ終わったら颯太たちの食器を取りに行き、自分たちのと合わせてそれを洗う。入れ替わりで他のメイドの方たちが食事を取りにきたりもした。
その人たちとも少し会話を交わして、次の仕事を聞きに一人で控え室に戻る。
「三枝さん、お疲れ様です」
「……佐藤さん。お疲れ様です」
運良く中には佐藤さんがいた。
しわの浮かぶ笑顔に雰囲気が柔らかくなる。
「給仕の時、大丈夫でした?」
「はい。なんとか」
「よかったです」
「あの他に仕事は……」
「ああ。それなら……」
ちょうど僕の手が空いているということで、掃除した部屋の点検を任された。点検といっても部屋一つ一つを覗くだけ。
大きく変わった点がなければそのままだ。
それを終えて控え室に戻ると、私服の女性とすれ違う。「お先に失礼します」と言われた。
控え室の中はもう殆ど帰りがけの人ばかりだ。
他の人同様、私服に着替え終えている佐藤さんを見つけた。
「佐藤さん、終わりました」
「ありがとうございます。三枝さん。もう今日は終わりなので、着替え次第帰ってください」
「わかりました」
「では、お疲れ様です」
「はい。お疲れ様です」
佐藤さんが軽く頭を下げて控え室を出ていく。他のメイドの方たちも挨拶をくれて、残ったみんなが控え室を出て行った。
広い控え室に残るは僕のみ。
ともだちにシェアしよう!