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メイド冥土10

「二日間だけ働く人か?」 「……あ、はい。そうです。お世話になります」 「そうか。あまり緊張しなくてもいいからな」 「はい。ありがとうございます。失礼します」 肩を撫で下ろして辞去する。 多少の早足は勘弁してほしい。厨房に無事逃げ切ると息が漏れた。 「大丈夫ですか? 三枝さん」 すると後ろからついてきた相笠さんに笑われてしまう。 「いや、緊張してしまって……」 「そうですよね。いきなり俊憲さまなんて」 「はい……」 「一旦仕事も終わったことですし、食事にしましょう」 「そうですね」 相笠さんの裏表のない笑顔に癒やされる。 颯太たちと同じメニューの食事をよそって、そのまま中で食べた。 それっていいのだろうかって佐藤さんに言われた時は思ったけど、控え室と厨房を往復するのは確かに大変だ。 しかも厨房内にも小さなテーブルと椅子がある。だから別におかしなことでもないようだ。 食べ終わったら颯太たちの食器を取りに行き、自分たちのと合わせてそれを洗う。入れ替わりで他のメイドの方たちが食事を取りにきたりもした。 その人たちとも少し会話を交わして、次の仕事を聞きに一人で控え室に戻る。 「三枝さん、お疲れ様です」 「……佐藤さん。お疲れ様です」 運良く中には佐藤さんがいた。 しわの浮かぶ笑顔に雰囲気が柔らかくなる。 「給仕の時、大丈夫でした?」 「はい。なんとか」 「よかったです」 「あの他に仕事は……」 「ああ。それなら……」 ちょうど僕の手が空いているということで、掃除した部屋の点検を任された。点検といっても部屋一つ一つを覗くだけ。 大きく変わった点がなければそのままだ。 それを終えて控え室に戻ると、私服の女性とすれ違う。「お先に失礼します」と言われた。 控え室の中はもう殆ど帰りがけの人ばかりだ。 他の人同様、私服に着替え終えている佐藤さんを見つけた。 「佐藤さん、終わりました」 「ありがとうございます。三枝さん。もう今日は終わりなので、着替え次第帰ってください」 「わかりました」 「では、お疲れ様です」 「はい。お疲れ様です」 佐藤さんが軽く頭を下げて控え室を出ていく。他のメイドの方たちも挨拶をくれて、残ったみんなが控え室を出て行った。 広い控え室に残るは僕のみ。

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