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メイド冥土12

「待って、亜樹」 「颯太……」 そう思ったのに、抱きすくめられてしまう。 そして僕だって颯太の胸に顔が埋まると、それに身を委ねてしまう。 本当は颯太とくっついていたい。そんなの、当たり前だ。 「おいでばかりじゃだめだよね。たまには俺から行かないと」 颯太の手が僕のウィッグを外して、直接頭を撫でてくれる。 確かに颯太から来るのは珍しいかもしれない。でもだからこそ嬉しい。 颯太は僕が本気で怒っていないってわかったのだと思う。本当は慰めて欲しいって、きっと。 「亜樹の願いより、抱きしめたいって気持ちを優先してみた」 「……え?」 「よかった。もう泣いてない」 僕が驚いて顔を上げると、颯太は目尻に優しくキスをする。 そ、そうじゃなくて。 颯太は僕の気持ちを察したのではなくて、自分が抱きしめたいから、抱きしめたんだ。引き止めたいから、引き止めた。 「あれ、亜樹、顔赤いね」 「赤くない……」 そう思うとすごく恥ずかしくなって、颯太の胸に顔を隠す。 「可愛いな〜、一緒に寝ようよ」 可愛いって言われるのも恥ずかしい時はあるけど、今の方がよっぽど恥ずかしい。颯太の破壊力すごい。 颯太のことだからもう全て察しているかもしれないけど、この際何でもいいや。 「……うん」 颯太の背に腕を回してこくりと頷く。 颯太は僕を抱きしめたまま後退して、背中からベッドに倒れこむ。ふわふわの布団が柔らかく受け止めてくれる。 「亜樹、あーき」 「颯太……んっ、んん」 颯太が嬉しそうに何度も唇を合わせる。そしてキスしながらベッドをギシギシ鳴らして、体の下にある布団になんとか入っていく。 動きながらのキスって、苦しい。少なくとも僕は苦しい。息の仕方がよくわからない。 「んーっ……んぁ……」 「二人だと温かいね」 「……そうだね」 やっと離れた口。 流石に颯太は反省しているのか、どこにも手を伸ばさず、素直に僕を抱きしめた。 密やかに微笑みあって、僕らは目を閉じた。

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