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メイド冥土14
颯太の部屋から出ると左右を確認する。まだ朝早いので、廊下は静まり返り、少しひんやりしている。
これならまだ誰も起きていないだろうし、メイドの方たちも誰も来ていないはずだ。
一応忍び足で一階まで行った。周りに気を配りつつ控え室までたどり着いた。
ドアを細く開けて滑り込む。
誰もいないし、ここまでする必要はない。でもやっぱりちょっと不安だった。
ドアの閉まる音を聞いて、ホッと一息つく。
そして改めて控え室に視線を向ける。やはり誰もいない。
昨日着替えたところで手早くメイド服に着替える。お団子を崩さないよう頑張った。そして荷物を棚にしまう。
手持ち無沙汰でとりあえず椅子に座る。
そうして暫く待つと最初に佐藤さんが現れた。
僕が既にいることに特に驚くこともなく、普通に挨拶をしてくれた。頭の回転が速い人なのだろう。
「あと今日だけですね」
「はい。頑張ります」
「やることは昨日と特に変わらないので安心してください」
「ありがとうございます」
佐藤さんと会話をしていると、他のメイドさんたちも続々入ってきた。そうは言っても合わせて五人だから、三人だけだ。
それぞれメイド服に着替えて、佐藤さんの連絡を聞いて、自分の仕事に繰り出した。
昨日の今日だから手間取ることもなく掃除をして、昼食時には他のメイドさんと話したりして、また掃除に戻って、颯太のお父さんに気づかれることなく夕食を運び、自分の夕食も終え、残った仕事を手伝って、無事に一日を終えた。
全て終わった僕は、また昨日のように他の人が帰るのを待った。
「三枝さん、二日間お疲れ様でした。じゃあ、さようなら」
「ありがとうございました。さようなら」
一人一人がそうやって声をかけてくれた。佐藤さん以外の三人が控え室を出ていった。
メイド服の僕と私服の佐藤さんが残る。
「佐藤さん、二日間ありがとうございました」
「いえいえ。渡来さまもご苦労様でした。精力的に働いていただいて。どのお部屋もすごく綺麗でした」
「そう言ってもらえると嬉しいです……」
佐藤さんは三枝さん扱いがきっと苦手だったのだと思う。今の雰囲気はどこか楽そうに見える。
雇い主の息子と親しい人を同僚とするなんて、佐藤さんみたいなベテランでも緊張するんだろう。ベテランだからこそ、かもしれない。
「では渡来さま。こちらをどうぞ」
「あ、はい」
佐藤さんが僕に封筒を手渡す。なんだかわからなくて、感触を確かめる。
そこまで硬くない。寧ろ紙のように柔らかい。
そうか、これはお給料だ。働いたのは二日だけだし、僕は高校生だから、直接渡した方が都合がいいのだろう。
自分の力で手に入れた初めてのお金だ。
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