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メイド冥土15
「颯太さまとお出かけでもなさるんですか?」
「そうなんです。ちょっとした旅行に」
「素敵ですね。どうか楽しんでください」
「ありがとうございます」
これで旅行に行く大前提はばっちりだ。今からわくわくしてしまう。
笑みが隠しきれない。
「では、渡来さま。次は客人として会いましょう」
「はい。また」
佐藤さんも嬉しそうに笑ってくれて、そのまま会釈を交わした。そして佐藤さんは控え室を出る。
残された僕は封筒を一旦かばんに仕舞い、メイド服から私服に着替えた。荷物を全て持って控え室を出る。
今日も念のためウィッグはそのままだ。
一応周りを気にしつつ裏口に向かった。昨日も裏口から入ったのだ。どうやらメイドさんは基本的に裏口を使うらしい。
そこへ着くとウィッグを外してから外に出る。
「颯太」
「亜樹、お疲れ」
「ありがとう」
外では颯太が待っていてくれた。僕を見つけると笑ってくれて、胸のあたりがぽわんって温かくなる。
喜色を抑えきれずに颯太に駆け寄る。
「ちゃんとお給料もらえたよ」
「確認してみなよ」
「あ、そっか。うん」
颯太に言われてかばんから封筒を取り出す。
封を開けて恐る恐る中を覗いた。
中には十分すぎるほどのお金が入っていた。大人として働いたし、何より九条だからというのがあるのだろうけど……。
「こんなに貰っていいのかな……」
「急遽入ってくれたってことで上乗せはあると思うよ」
「そう、なんだ……」
それでも本当にいいのかなって思ってしまう。騙したことに罪悪感があるからだろう。
そんな僕の肩を颯太が抱く。
「亜樹はすごく頑張ったんだから気にしなくていいんだよ。それにこれで?」
颯太が悪戯っぽく笑って、僕の顔を覗き込む。
「旅行に……行ける……」
「そう。さ、帰ろう」
「……うん。帰る」
颯太の笑顔につられて僕も笑顔になる。
この日は旅行の時にどこに行くか決めながら帰った。
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