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華やぐ心1
メイドの仕事を終えて、あとは旅行を待つだけ。僕は冬休みまで残った学校生活を若干そわそわしながら過ごしていた。
だって旅行が楽しみすぎる。封筒を見るたびにホクホクしてしまうし。
「亜樹」
「ん〜?」
「水族館、近くにあったよ」
「ほんと?」
隣の席に座る颯太がスマホの画面を見せてくれる。旅行先で行ける範囲にある水族館の画像だ。
颯太との会話にも旅行の内容が混じることが増えた。水族館はどこ行くかの話題で僕が行きたいと言った場所。動物園は行ったから次は水族館という単純な思考だ。
「楽しみだね、旅行」
「そうだね。あ、そうだ。俺職員室行かなきゃ」
「そうなの? 行ってらっしゃい」
「うん。行ってくる」
颯太はハッと思い出して席を立つ。机の中からファイルを取り出して、そのまま教室を出て行った。
僕はその背を見送ると、こっそり教室に視線を走らす。そして目当ての人を見つける。
そろそろとその人の近くに行った。
「……清水くん」
「渡来か。どした?」
何かノートに書き込みをしていた清水くんに背後から声をかける。清水くんは手を止めて振り返ってくれた。
「あの……頼みが、あるの」
「頼み?」
「ちょっと買い物に、付き合って欲しくて……」
「いいけど、どうして急に」
「えっとね……」
内容が内容だから少し恥ずかしくなる。颯太がいないか、そして周りにどれくらい人がいるか、思わず確認してしまう。
そして清水くんの机に手をかけてしゃがみこむ。
「颯太の誕生日プレゼント買うの……手伝って欲しいなって……」
「間宮の誕生日プレゼント?」
「うん。お願いできる……?」
自然と上目遣いになって清水くんを見つめる。清水くんは少し頬を染めて、複雑そうな顔になった。
やっぱり迷惑だったのだろうか。一緒に買い物までの仲ではないのかもしれない。
「あ、そっか。練習忙しいよね……」
「いやいや、平気! 大丈夫! 今日たまたま練習休みだし、放課後行く?」
「いいの……?」
慌てて笑顔になる清水くんをじっと見つめる。
本当に無理していないかなって。
「いいに決まってる。渡来と出かけるなんて俺は嬉しいよ」
「清水くん、ありがとう……」
なんて優しいことを言ってくれるのだろう。
あまりに嬉しくて清水くんの手を掴む。きゅっと握ってまた清水くんを見た。
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