317 / 961
華やぐ心2
「渡来〜、そういうのやめときな」
「え……? そういうの……?」
清水くんは柔らかく僕の手を外して注意する。それに僕が首を傾げると清水くんは苦笑した。
そういうのとは手を握ることだろうな。僕なりに嬉しさとか感謝を表したつもりなのだけど……。
「俺も俺で複雑だし。でも渡来ってそういうとこ可愛いよな」
「なっ……からかわないでよ」
「……まあ、いいや。ほら間宮が帰ってくる前に席戻ったほうがいいんじゃない?」
清水くんが教室の入り口に目線をやる。僕も慌てて視線を送るが、颯太はまだのようだ。
「わかった。ありがとう、清水くん」
「おう。また放課後な」
「うん」
手を振りあって、僕は席に戻る。
清水くんみたいに信頼できる友達を持ってよかったな。二年になったばかりの頃の僕では、こんなことは考えられない。
恋人どころか友達すらいないのだから。でも今やどちらも得て、クラスの人とだって話せる。
よく聞く言葉で言うなら、『出会いに感謝』というやつだ。ここまで自分が変ることができたなんて、嬉しいし、信じられないし。
「亜樹、なんか嬉しそうだね」
「わっ、颯太」
いきなり肩を叩かれて体を震わせてしまう。いつの間にやら颯太が戻ってきていた。
「何考えてたの?」
「颯太に出会えてよかったなって」
「何それ。可愛すぎ」
颯太が嬉しそうにニヤニヤ笑って僕の頬を撫でる。僕はその手に頬を擦り付ける。
颯太の掌の熱が心地よかった。
しばらくそれに身を委ねる。
「亜樹、今日の放課後なんだけどね」
すると颯太がそう切り出す。
その言葉で僕も放課後のことを思い出す。今日一緒に帰れない言い訳を考えなければ。
そう思ったが、続いた颯太の言葉はちょうどいいものだった。
「一緒に帰れないんだ」
「……え?」
「ごめん。先生に呼ばれてて、しかも時間かかりそうなんだ」
「……うん。わかった」
颯太が僕に両手を伸ばして、すぐに引っ込める。そして中途半端な位置で止まったその手は僕の両手を掴んだ。
「ごめんね、明日は大丈夫だから」
「うん。平気だよ」
安堵を不安と取ったらしい。颯太は申し訳なさそうに僕の顔を覗き込む。
流石に教室で抱きしめるのは無理だろう。理由はどうあれせっかくの機会を逃したのは淋しいけど手だけで我慢。
「温かいね」
「手?」
「うん」
「俺を煽るのやめてくれる?」
「あ、煽ってないよ」
焦って言い返すと颯太がおかしそうに笑う。僕が頬を膨らませるとそこを突かれて空気が抜けた。
それにぷっと吹き出して、結局二人で笑い合う。
そうして昼休みが終わるまでたわいない会話を繰り返した。
ともだちにシェアしよう!