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華やぐ心3
「じゃあ、亜樹。また明日ね」
「うん。ばいばい」
午後の授業も真面目に受けて、放課後に教室で颯太と別れる。今日は六時間だから結構時間のある日でよかった。
颯太の背を見送ってから教室に視線を走らせる。清水くんの帰り支度はちょうど終わったようだ。
「渡来、行くか」
「うん」
清水くんが僕のところまで迎えに来てくれる。小さく頷いて、並んで歩き出した。
部活に向かう声や放課後の行き先を相談する声など、様々なざわめきの中を抜けて、僕と清水くんは学校を出た。
「目星とかあるの?」
清水くんが切り出す。吐き出された息が白くて、もうすっかり冬だとぼんやり思った。
「んとね……全然決まってないんだ。ありがちなものばかり思いつくの……」
「ありがちなものじゃだめなわけ?」
清水くんの問いに首肯する。
クリスマスとか誕生日とかせっかくなら僕らしいものをあげたいって思った。だってこういうイベント事は初めてなのだ。
でも僕らしいものとは何だろうと悩んでしまう。僕らしいと言えるほど特徴を持っていない人間だ。部活をやっているわけでも、得意なことがあるわけでもない。
「俺は好きな人から貰えるなら何でも嬉しいけどなぁ〜」
「そうなのかな……」
「間宮だってそうだと思うよ」
清水くんは目を細めて僕を見た。その瞳の中には愛情や温かさが浮かんでいる。
きっと清水くんの好きな人のことを思い浮かべているのだろう。清水くんが好きになるくらいだから、きっと素敵な子だと思う。
「まあ、これから行くのはモールだし、途中で見つかるかもな」
「うん。そうだね」
僕もふわっと笑みを零した。
そして学校の最寄駅にたどり着く。清水くんは僕を先に改札に通した。ホームを歩くときは線路側に自分が立った。
颯太もいつもこうだけど、清水くんもそうらしい。相手が女でなくてもそうやって気を遣えるのは凄い。
「あ、清水くん。電車来たよ」
「おう」
ホームに着いてすぐ電車は滑り込んできた。清水くんは当たり前のようにまた僕を先に電車に入れた。
朝ほどではないけれど車内は結構混んでいた。やはり電車は苦手だ。
「渡来。ちょっと」
「清水くん?」
ドア近くで固まって動けないでいると、清水くんは僕の腕を掴んだ。
困惑しつつも従っていると、清水くんは一人分だけ空いた席に僕を押し込んだ。
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