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華やぐ心4

人混みから少し解放されてホッとする。その後すぐに清水くんを見上げた。 だって清水くんは立ったままだ。 「清水くん、僕いいよ。座らなくて」 「渡来が座っとけって。俺は脚鍛えるためにも立ってるの」 「……ありがとう。清水くんは優しいね」 清水くんは僕の言葉に照れたように笑った。 「幸せなんだろうなぁ……」 その笑みを見てするりと出てくる言葉。 「え?」 「清水くんと付き合う子」 「……どうして?」 颯太との関係を不満に思って出た言葉ではない。あくまで一般的な見解といったところだ。 「だってこんな優しくて、話すと面白いし、気遣い屋さんだし。清水くんに好かれる子は幸せだと思うよ」 僕が笑顔を見せると、清水くんは僕から視線を逸らした。 「本当にそうなのかな」 「絶対そうだよ。そういえば清水くんは彼女いるの?」 「いないよ。すごく好きな人はいるけど」 自嘲気味に笑う清水くん。 それを疑問に思いはしたが、とりあえず質問をしてみる。 すると清水くんは僕を見て、今度は苦笑した。 「でもその好きな人には恋人がいる。だから淋しい片想いだ」 清水くんの意味ありげな表情の意味がわかってしまう。僕は馬鹿な人間で、言葉に詰まってしまった。 でも何か言わなきゃって。 「……きっと清水くんの良さにその子も気づくよ! だって、本当に素敵な人だから……。いつか振り向く日が、来るんじゃないかな……」 「……そうだと嬉しい。ありがとうな、渡来」 「無責任なこと言ってごめんね……」 「そんなことないよ。嬉しい」 清水くんは小さく笑ってくれる。僕も笑んでから視線を落とす。 無遠慮に踏み込んで、酷いことを言ってしまった。清水くんの好きな人のことを知りもしないくせに、振り向くかもなんて。 自己嫌悪だ……。 清水くんは全部わかっているだろうから、より情けない。 「渡来、降りるぞ」 「あ、うん」 清水くんにそっと肩を叩かれた。 また清水くんが人混みを押しのけてくれて、無事に電車を降りる。 モールは駅からすぐだ。 いつまでも沈んでいてはいけない。颯太にも清水くんにも迷惑がかかる。 だから笑って清水くんと歩き出した。

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