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旅行の始まり3

「あーき、起きて。そろそろ着くよ」 「ん〜……着い、た……?」 腕を軽く揺らされて、ゆっくり瞳を開ける。 ぼんやりした視界はなぜか傾いていて。 そういえば頭は何かに乗っている。 この場合、その可能性は、一つ。 「そ、颯太……ごめんっ……」 慌てて颯太の肩から頭をどかす。 カァ〜ッと頬に血がのぼる。 どうやら妙に気分が浮いていたのは寝不足だったというのもあるようだ。楽しい気分は変わってないが、だいぶ落ち着いている。 「あ、それに……寝ちゃって……」 「昨日寝られなかったの?」 「う……うん」 「へぇ〜」 にやにや見てくる颯太から顔をそらす。 すっかりいつもの調子だ。 覗いてこようとする颯太の顔を押し返していると、ちょうど目的の駅に着く。 どちらからともなく笑いあって電車を降りた。 「着いた……!」 「亜樹、目がキラキラしてる」 駅を出ると見知らぬ土地が目の前に広がる。空はからりと晴れわたり、冬の寒い空気を太陽が補填してくれる。 初めて来る場所に胸が高鳴る。 状況としては前に逃げた時と似ているけれど、その時と違って何もかも輝いて見える。 道行く人々も、駅の周りに植えられた木々も、そこらを歩く鳥たちも、全て新鮮で、全て素敵。 我ながら単純な脳みそだと思う。 そうして景色を眺めていると自然に大きな木が目に入った。 クリスマスツリーのような形のそれは、電飾が巻かれたり、綿や丸い飾りなどで綺麗に飾り付けられている。そしてもちろん頂点には星だ。 平日の、しかも昼のせいか、イヴという感じはしないけど、今日は確かにイヴなんだ。 ますます目を大きくしてそのツリーを眺める。 「クリスマス仕様になってるね」 「うん……すごく綺麗」 「夜はもっとすごいの見れるよ」 「そっか。イルミネーション行くもんね」 夜は冬になると大々的にイルミネーションをやっている公園に行く予定を立てていた。 そして昼間のうちは水族館……! 「今はまずホテル行こっか」 「そうだね」 お互いがお互いの荷物を見やる。 颯太は大きめのリュックに手提げ。僕は大きめのカバンにリュックだ。 どこからどう見ても旅行者。 とりあえず荷物を置いて、ゆっくり街を散策だ。 口角を上げて歩き出した。

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