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旅行の始まり4
バスに乗って辿り着いたホテル。
そしてその一室。
当然のごとく颯太が僕を先に入れてくれたから、僕が最初に中を見た。
二人で座ってテレビを見れるスペースや真ん中にあるダブルベッド。二人で過ごすのに十分な広さの部屋。ちなみにベッドはふかふかそう。
そして奥にある窓。
逸る心を抑えて荷物を置き、窓に近寄った。
カーテンをかきわけ、外を見る。
思わず息が漏れ、口角が上がる。
中心街から少し外れた場所を選んだおかげで、高いビル群にあまり邪魔されることのない景色。そして建物の先に海が見える。
「景色どう?」
「……すごく、綺麗……」
「俺にも見せて」
僕の顔の横から颯太の顔が飛び出す。僕の背中と颯太の胸が密着する。
まるで抱きしめられているようで、体が硬直する。
「高めの階、開いててよかったね」
「……うん。海、見えるよ」
「明日行こうか」
「……うん」
スッと颯太が離れていって、やっと一息つける。
別に急ぐわけではないけど、上着は着たままだしこのまま外に出るのだろうな。
そんな風に考えながら振り返る。
颯太はリュックから少しの荷物を手提げに移していた。
そこからベッドに視線をずらす。
旅行先だと少しやりたくなる……よね。
だって目の前のベッドは見るからにふかふかで、しかもダブルだから大きくて。
でもそんな子供っぽいこと、颯太のいる前で、できない。
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