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旅行の始まり7

その店は『cielo azzurro』という名前だった。中に入ると見た目通り静かな雰囲気の店だった。 主婦やOLなど女性が多めだが、スーツ姿の男性も中にはいた。 お好きな席にと言われたので進んでいく。 「おー、元気か」 前方から黒髪のサラリーマンらしき男性が歩いてくる。片手にスマホを持ち、険しい顔を緩めて会話をしている。 仕事の最中に恋人と電話でもしているのだろうか。微笑ましい感じ。 「おれ? 出張先だよ」 男性は柔らかい表情をしながら店の中を歩いていく。 通路は狭いからその男性が通りやすいよう体の向きを変える。しかし男性は電話に夢中なようで、僕に気づいていない。 どうしようと思った瞬間にはぶつかっていた。 「悪ぃ。怪我ねーか」 「あ、はい。大丈夫です」 「すまねーな」 男性は眉間にしわを寄せた顔を僕に向ける。たぶんこれが通常なのだろう。 口調も随分と荒い。もしかしてやんちゃだった人とか。 考えてもわかるものではないが。 軽くその人と会釈を交わしてすれ違った。 「は? ちげーよ。ちょっとぶつかっただけだっつの」 男性はそんな風にスマホの向こうの人に言いながら店を出ていった。 僕と颯太は角の席に座る。 「亜樹、大丈夫だった? ごめん、俺が前歩けばよかったね」 「全然平気だよ。僕だって男だし」 「華奢な、ね」 「……怒るよ」 今度は僕が眉間にしわを寄せて颯太を睨む。 確かに僕は颯太とか清水くんとか柊先輩とか、周りの人に比べてチビかもしれないけど。でも女の子と比べたら僕の方が大きいんだ。 比較対象おかしいかもしれないけど。 「ごめん、ごめん」 颯太は歯を見せながら僕にメニューを差し出す。僕はそれを仏頂面で受け取って自分にだけ見えるように広げた。 だけどすぐに颯太にも見えるよう横向きにした。 颯太はフッと微笑むと、メニューの片方を手にした。 その店で食べたパスタはすごく美味しかった。

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