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青翠と恋心5

イルカショーのプールを離れて、次に来たのはペンギンの水槽だった。 岩場と水の部分が分かれていて、上からも覗くことができる。何十匹もいるペンギンはそれぞれ泳いでいたり、岩場に上がっていたりする。 短い足でぺたぺた岩場を歩く様子は物凄く可愛い。 体を伸ばして水中を素早く泳ぐ姿はかっこいい。 「ペンギンっていつ見てもどこから見ても可愛いね」 「なんか亜樹に似てる」 「……どこが?」 「可愛いところ」 「すぐそうやって言う」 颯太を睨んで口を尖らせると愛しそうに微笑まれるから困る。 「僕はリスなんでしょ……。それでいい」 「うん。一番似てるのはリスだよ」 いたたまれなくなって颯太を放って歩き出す。 僕は可愛いって言葉を貰ってばかりだ。その言葉を貰えたらとても嬉しい。でも僕は颯太にかっこいいと全然言ったことがない。 たまには颯太に返したい。 恥ずかしくて……無理そうだけど。 心の中ではいくらでも言えるのにな。 「あーき、ほらふれあいコーナーだって」 「あ……ほんとだ」 「大丈夫だからね」 「……え?」 颯太はニコッと笑って僕の手を引いていく。それはまるで初デートの時みたいだった。 涙が滲みそうだった。 目元を擦って颯太に足並みをそろえる。 連れていかれたふれあいコーナーは、まさかのサメだった。 小さめでしかも大人しい数種類のサメを集めた浅い水槽。 もちろん噛まないことはわかっているし、それまでの事例もないはず。 でもサメというだけで僕の体はどうしても躊躇ってしまう。気にはなるけど、怖くもある。 指先が自然と内側に折り込まれる。 「亜樹? 触ってみなよ」 「でも……」 颯太は全く気にせずに水槽に手を突っ込んでサメの背を触っている。 僕は颯太の隣にしゃがんで、その様子を見る。 颯太が触っていても、サメは殆ど動かない。攻撃的な様子は微塵も見受けられない。 恐る恐る手を伸ばして、指先だけ水につける。 そこで止まる、腕。 「平気だよ。ほら」 「ひゃっ!」 すると颯太が僕の腕を無理やり水槽に潜らせた。そしてサメの背に触れさせる。 滑らかで柔らかい感触。ほんの少し押すとその指は押し返される。 思っていたよりも全然気持ちいい。 「颯太、すごいね。サメの背ってこんな感じなんだ」 一度触れてしまえば恐怖なんて消えてしまう。 一瞬で笑顔になった僕は隣の颯太を見る。だけど颯太は申し訳なさそうな顔をしていた。

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