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閃々ラプソディ3

「亜樹、左右に腕広げて」 「腕?」 人目が遠くなった頃に颯太がそう言う。 颯太に言われた通りにしてみる。これはまるで落ちないようにバランスを取っているみたいだ。 そこで颯太の言いたいことがピンとくる。 「水の上を歩いているみたいだよ。すごく綺麗」 「……そうだね」 振り返って目を細める。 まるで映画のワンシーン。ヒロインの気持ちはこんな感じなのだろうか。 「ためしにこうしてみる?」 「ひゃっ!」 いたずらっぽく笑った颯太は僕の腰に手を当てて、ほんの少し浮かせる。思わず腕を畳んでしまった。 でもすぐに降ろしてくれたからまた腕を広げてみる。 「もう……先に言ってよ」 「ごめん、ごめん」 肩の後ろの顔を睨む。でもすぐに微笑んでしまう。 僕は腕を広げ、颯太は僕を支えるように腰を持つ。その状態で歩幅を合わせて歩んでいった。 一歩、一歩、地面を踏みしめ、ゆっくり、歩く。 一分くらい続けていたかもしれない。 でも少しずつ手が冷えてきて、僕が腕を先に下ろす。颯太も頃合いだと思っていたのだろう。すぐに腰から手を外した。 そしてお互い元の位置に収まって、また手を繋ぐ。ちらりと顔を上げると自然に唇が重なった。 「一回だけ」 「一回だけ」 二人同時に言ってふふって笑う。 そして板の道を進み続け、普通の道に戻った。 そこでまず現れたのは光る馬車。黄色とオレンジ色の電飾が包んでいる。 「馬車なんてあるんだ」 「そうだね」 颯太も同じ方に視線を向けた。 どうやら中に入れるようで、今は子供が二人乗って窓から顔を出している。その外には両親がいて写真を撮っていた。 すると颯太が僕を見て、 「亜樹も乗る?」 ニヤッて笑う。 「乗らないよっ……」 確かに綺麗で魅力的な建造物だ。でも乗ると言われたら羞恥が勝る。 こういうのは外側から眺めるのがいい。 微笑ましい家族の横をすり抜け、僕たちは道に沿って進み続けた。

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