341 / 961
閃々ラプソディ4
アイデア満載のイルミネーションも終わりに近づいていた。最後に出迎えてくれたのはハートだった。
真ん中はくり抜かれたもので、縁はピンクに彩られる。
その前でもやはりカップルが写真を撮っている。きっといい思い出になるのだろう。
最後の見せ場だろうとなんとなく立ち止まってハートを見る。
写真を撮ったカップルは楽しそうにお喋りしながら横を通っていった。なるほど、確かにお互いしか見えていない。
写真なんか撮れるはずもないから、早々に立ち去ろうとしたら、ちょうど反対側からやってきた女性二人組を見つける。
目が合ったような、気がする。嫌な予感。
それは見事に的中して、その二人はこちらへ向かってきた。即座に手を離す。
彼女らは僕らの前で足を止めた。
「あの〜、私たち寂しく女二人旅なんです」
ほら来た。絶対こんなことだろうと思った。
控えめそうな雰囲気を出しつつ、颯太を誘う気なんだ。ちょうど二人同士ですし一緒に回りませんか? とか言って。
せっかく二人きりなのだし、もうホテル向かうところだし、絶対に断りたい。
心の中では強気だけど、勢いのある人はやっぱり苦手だ。だから半歩下がって颯太の背中にちょっぴり隠れる。
すると何故か言葉を発していない方の女性が目頭を押さえた。
どうしたのだろう。めまい? 頭痛? 前者なら対処法を教えられる。
心配で声をかけようとした僕より先に、女性が言葉を続けた。
「だから写真撮ってもらえません?」
「……はい?」
僕も颯太と同じように心の中で聞き返す。
写真って、さっきのカップルみたいな? ハートの前でってこと?
「知り合いにネタ写真として見せたくて! ハートの前で撮りたいんです!」
「あっ、ああ。構わないですよ」
「わーありがとうございます!」
女性らは二人でわっと歓声をあげて、片方がスマホを颯太に手渡す。
そして何やら嬉しそうにひそひそ話しながらハートの前まで行った。
それぞれの片手を合わせて小さなハートを作る。
颯太はスマホを構えた。
「撮りますよ〜! はい、チーズ!」
カシャッという音。
そして女性らがまたお礼をしながら僕らの元へ戻ってくる。
撮れた写真を見て無邪気に喜んでいる様子を見ていると、ナンパだと疑った自分が申し訳なくなる。全く無害な人たちじゃないか。
ともだちにシェアしよう!

