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潮風と旅の終わり1
ホテルをチェックアウトしたあと、その近くで昼食をとった。そして全ての荷物を持ったまま、行くつもりだった海へとやってきた。
潮の香りが鼻に入り、穏やかな波の音が耳をくすぐる。視界いっぱいに青い海が広がって、潮風が髪の毛をさらう。
冬だからか海は無人だった。二人して大きな荷物を持って砂浜へ降りる。
靴伝いに砂の柔らかな感触が感じられた。
「海なんていつぶりだろ」
「僕も全然来たことないや」
「亜樹は夏より冬の海の方がいいんじゃない?」
「静かだから?」
「そう」
「確かに」
数少ない海を訪れた記憶では、砂浜を多くの人が埋め、海の中にもカラフルな浮き輪や人々が、というイメージだ。
それよりも颯太と二人だけの静かな海の方が断然いい。
僕と颯太は波が来るか来ないかギリギリのところを歩き始めた。
濡れないように気をつけて歩くのが少し楽しい。
「そういえば海行くよね、修学旅行でも」
「そっか。沖縄?」
「そー。亜樹は行ったことある?」
「ないや」
僕と颯太の順に一列で歩いていく。
修学旅行は二月だ。初めての沖縄で、考えるとすごくワクワクする。それは颯太が一緒という前提のもとだけど。
二年の最初の僕には地獄でしかなかっただろう。お金を理由に行かずともよかったかも。
「俺と一緒で楽しいって思ってるでしょ?」
「え? 正解」
颯太が僕の横に並んでくる。その笑顔を驚いて見つめた。
「俺も亜樹と一緒なら修学旅行が楽しみだから」
「……ふふ。同じだね」
「相思相愛、一心同体、なんてね」
「大正解」
「言うねぇ」
二人で顔を見合わせて笑い声を上げる。二人しかいない砂浜だからその声はよく響いた。
波音と混ざって空気に溶けていく。
海水には手を出さないけど二人でちょっとふざけあいながら砂浜の端っこまで来てしまった。
大きな岩が数個むきだしになっていた。手つかずの自然という感じが好き。
ためしに岩陰を覗いてみる。
「あ、颯太見て」
「んー?」
「カニがいる」
「本当だ」
岩の隅に一匹の小さなカニがいた。茶色だから下手すれば見逃してしまいそうだ。周りに仲間らしき陰はない。
僕と颯太はしゃがんでそのカニを眺める。
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