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潮風と旅の終わり5
旅行から帰った週の土日。模試があるということで僕と颯太は学校に来ていた。
聞き慣れたざわめきは少し安心するくらいで、そんな自分に驚くこともある。
「模試があってよかったね」
「うん。あ、ちょうど清水くん来たみたい」
颯太の指差す先に清水くんがいた。彼が教室に入ると次々挨拶が交わされる。その波が収まったところで小さく手を振ると、清水くんはこっちに気づいた。
挨拶に見えるだろうにわざわざこっちまで来てくれる。
「おはよう。渡来」
「清水くん、おはよう。これあげる」
「ん?」
どこかワクワクした気分で立ち上がるとお土産を清水くんに差し出した。
「お土産だよ」
「わざわざくれんの? サンキュー!」
清水くんはニカッて眩しく笑って、僕の渡したものを見る。
ちんあなご、喜んでくれるだろうか。クッキーは普通に美味しいだろうから、そっちは嬉しいと思ってくれるはず。
「へー、ちんあなごのキーホルダーつき?」
「……そうだよ」
「食べ物だけじゃなくて形に残るものか。しかも渡来が選んでくれたんだろ?」
「うん」
「すっげー嬉しい。ありがとう」
清水くんは頬を染めて真から嬉しそうな笑顔を見せてくれる。それを見ると僕も心がほっこりした。
やっぱり相手を思って買ったものは何でも喜んでもらえるんだ。
「あっ、あとプレゼント選び手伝ってくれてありがとう」
「おう。またいつでも頼れよ」
「ちょっと待って。プレゼント選び?」
それまで黙って僕と清水くんのやりとりを見ていた颯太がすかさず口を挟んできた。
そっか。颯太には内緒だった。でもプレゼントはもうあげたし、今さら隠す必要もないか。
「颯太の誕生日プレゼントを選ぶの、手伝ってもらったんだ」
「といっても最終的に選んだのも見つけたのも渡来だけどな」
「……それっていつのこと?」
すると颯太は過去に意識を向けてから、ハッとした表情になる。
「えっと……颯太が先生に呼ばれるからって一緒に帰れなかった日」
「……やっぱり」
「え?」
「俺もその日、買いに行ってたんだよ」
「そうだったんだ」
そう言われたすごく納得できる。
あの日は自分から断らずに済んだって安心して終わったけど、今考えればおかしい。放課後用事があっても颯太は極力早めに終わらせて一緒に帰りたがる人だから。
颯太もあの日僕を想って、指輪を選んでくれてたんだ。なんだか嬉しい。
「俺は一人淋しく買い物なのに、亜樹は清水くんと出かけてたんだ……」
「じゃあ今度三人で行こうよ」
「……違うよ、亜樹」
颯太が悲しそうに眉を下げるから、僕が笑顔で提案する。
颯太だけ仲間はずれは可哀想。
でも颯太に否定される。考えてもなんでかわからなくて清水くんを見ても苦笑いされるだけ。
重ねて問おうとした時ちょうど先生が入ってきたので結局わからずじまいだった。
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