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潮風と旅の終わり6

模試の手応えはいつも通りって感じだった。比較的易しい問題の多い会社がやっているやつなので、解きやすさはあったけれど。 二年の後半からは基本教科、国数英だけではなく社会と理科も追加されるので、明日も学校だ。 こうなってくるといよいよ受験生だなって緊張感が湧いてくる。受験生0学期とはよく言ったものだ。 今から胃が痛い。 「亜樹、柊のところ行っちゃお。柊が帰る前に」 「わ、わかった」 颯太に言われ、模試の模範解答や問題冊子をリュックに詰めこむ。そして足早に教室を出ていく。 柊先輩も僕も颯太も文系だから、階が違うだけで横の距離的には近い。 颯太は理系分野の方が得意なタイプだけど、経済か法をやろうとして文系を選んだとか。僕は数学がてんでだめだし、国語が得意だから。 階段を下りて三年生の階につく。柊先輩のクラスに行くと、どこかぴりぴりした空気が漂っていた。 いや、そもそも三年生の階からその空気はあった。センターが間近なのだから当たり前だ。 少し強張る僕に代わって颯太が柊先輩を見つける。廊下側から二列目の一番後ろの席で、静かに荷物を仕舞っている。 「柊」 颯太が臆すことなく名を呼ぶと、柊先輩はまず少し眉間にしわを寄せた。それからこちらを見る。 颯太を見て、僕を見て。そっと溜め息を吐いた。 「大丈夫。なんだかんだ嬉しいはずだから」 「そうなの?」 「颯太」 その態度を心配に思った僕に笑顔で話す颯太。そしてくるはずだった颯太の返事は、柊先輩の声に消された。 不機嫌そうな柊先輩と邪魔にならない場所まで行く。 「何の用だ」 「柊先輩……お土産、どうぞ」 「土産?」 颯太を睨んでいた柊先輩が僕に視線を移す。少し怖くて自然と上目遣いになった。 「颯太と旅行行ったので、買ってきました」 「チョコレートか」 「嫌い、ですか……? 勉強していると甘いもの欲しくなるかなって……」 「いや……よく食べる。ありがとう」 柊先輩が表情を緩める。微かに微笑んでくれたから安心した。 可愛らしい生き物型のチョコレートを柊先輩が手に持った。 「亜樹にはそうやって笑う」 「なんだと?」 「俺から貰ってもそんなこと言ったかなーって」 「亜樹と颯太は別人だから当たり前だろう」 颯太と柊先輩のやり取りは一見すると険悪なものだけど、柊先輩を見てみればほんのり笑っている。 柊先輩はなんだかんだ颯太に気を許しているのだろう。颯太も楽しそうだし、よかった。 「じゃあ受験頑張って」 「ああ」 「柊なら大丈夫だろうけど合否出たら教えてよ」 「お前に言われると癪に触るものがあるな」 「じゃあ亜樹が頼んで」 「えっ」 微笑ましい気持ちで眺めていると急に話を振られて当惑する。 結果を無理に聞きたいとは思わないけど、受験を応援しているのは僕も同じだ。それに颯太は柊先輩のことをよく知った上で言っただろうから、柊先輩も怒ってはいないだろうし……。 ぐるぐる考えていたらよくわからなくなってきた。 「……柊先輩、受験頑張ってください。えっと、結果は……その、柊先輩次第で、いいんで……」 「ああ。ありがとう」 しどろもどろで言えば、やはりゆるりと笑んでくれる。こんな笑ってくれるようになったのは、大事な人ができたからでもあるのだろうな。 「じゃあ……さようなら」 「ああ。また」 柊先輩に頭を下げ、颯太と連れ立って廊下を去った。

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