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あけまして2

年の瀬は一年の出来事を思い返すものだろう。僕も僕で自然と様々なことが思い出された。 窓に腰かけて颯太とそのことについて語った。 「そういえば」 ふと会話が途切れた時に颯太が言葉を挟む。 「父さんが正月は九条で過ごさないかって」 「え……いいの?」 「柊は無理そうだけど、久志さんは行けそう」 「……そこに僕?」 「うん」 颯太はさも当然といった様子で頷く。 いやでもよく考えてほしい。 みんな九条の関係者だ。その中にごく平凡な一般人の僕が入っていいのか。答えは普通なら否。 正式な身内でもないのに、正月を過ごすとか。あの豪華な家に滞在できることに興味がないわけではないけれど。 「父さんが二人きりで話したいことがあるとか」 「えっ……」 パッと頭に浮かぶのは怖い内容。怒られるとか拒否されるとか……。 すごく雰囲気は柔らかくなったけれど、二人きりと指定された上で想像できるのはそういうことばかりだ。だって僕と二人でただ話すことに価値はないから。 跡継ぎはどうするんだって、別れてくれって、言われたらどうしよう。 「来るよね?」 一人で青くなる僕をよそに颯太は聞いてくる。 それもワクワクした表情で。いつもあんなに大人びた颯太が、こんな可愛い表情。 みんなが実家に揃って、僕と実家で過ごせて。 「……うん」 「楽しみだ」 そんな表情をされたら頷くしかできない。 いつもかっこよくてきゅんきゅんさせられているのに、あんな可愛い表情は心にくるに決まっている。 あまり思い詰める必要はない。きっと悪いことは言われない。というよりそう思っておいた方が心臓にいい。 「二人ともご飯できたわよぉ〜!」 「はい」 「わかった」 ちょうどいいところで母さんの声がかかる。窓の鍵をしっかり閉めて、ダイニングに出る。 テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいた。 大きなボウルに入ったサラダと、丸いカップに入ったスープ。それから鉄板がそれぞれの席の前に置いてあった。 「これ懐かしい」 「でしょう?」 「美味しそうです」 僕と颯太と母さんが席に座る。 鉄板の料理は僕が小さい頃に母さんがよく作ってくれた。 軽く火を通した牛肉を鉄板に乗せて火にかけ、溶き卵を流し入れたもの。僕の大好きなメニューだ。 「いただきます」 久しぶりの料理を口にする。肉の旨味と卵の程よい甘さが絡む。 懐かしくて、とても美味しい味。 「んー……やっぱり美味しい」 「よかった〜」 「サラダもスープも美味しいです」 「あら、嬉しいわぁ」 僕と颯太から次々に褒められ母さんは嬉しそうだ。 やはり母親の味は温かい。頻繁には無理だとわかっているし、願望を安易に口にして母さんの負担になるつもりもないが、毎日食べることができたらとは思う。 自分の料理とは桁違いだ。長年の深みというか、安心できる味というか、そういうものはまだ僕には出せない。

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