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あけまして5
「…………」
ゆっくりとまぶたを持ち上げる。目の前には豊かなまつ毛を持った瞳がある。
その瞳に少し力が入り、それから持ち上げられた。柔らかな榛色が姿をあらわす。
互いの視線が絡み、微笑み合う。
「……あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
「今年もよろしくね、颯太」
「こちらこそ。よろしく、亜樹」
清々しい朝の光の中で、僕らは一つ口づけを交わした。
そのあとダイニングに出ると母さんは既に起きていた。同じように新年の挨拶を交わし、軽めの朝食をとった。
朝食後は颯太と二人で初詣に行くことにした。その足で九条に向かうつもりだ。
母さんが玄関まで見送りにきてくれる。
「そのまま颯太くんの家に行くのよね?」
「うん」
「じゃあ私は一人でゆっくり過ごしているわ」
「わかった。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
本当は颯太は母さんも誘ってくれたけど別の機会にと断られていた。
せっかくの休日だから慣れないところで緊張するよりは家で一人の方がいいのだろう。
母さんに小さく笑いかけて家を出る。目指すは近くの神社。
「元旦ってやっぱり静かだよね」
「車がいないからかな」
「そうかも。空気綺麗な感じ」
神社に近づくにつれて人通りが多くなる。ここら辺の神社といえばここくらいだから仕方ないだろう。
神社に入ったらまず水で手を清めた。それから参拝の列を見る。
「……すごい行列」
「これなら手繋いでもバレなそうだね」
「だ、だめだよ」
掌を握って胸の前に持ってくる。そして手なんて繋がずに列に並んだ。
お賽銭箱からずらりと長い行列ができていた。初詣の日だけは毎年こうだ。待ち時間が長くて飽きてしまうくらい。
基本は無宗教のくせにこういう時だけ乗っかるのなんて日本人は不思議だ。
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