368 / 961
あけまして7
小屋みたいなところで甘酒を無料で配っているようだ。颯太が二つ受け取ってきて、僕に渡してくれた。
「甘酒……初めて」
「美味しいよ」
「……熱い?」
「うん。たぶんね」
紙コップからほんのり湯気が出ている。猫舌だから火傷するのが怖い。
唇を少し尖らせて、ふーふー息を吹きかける。
その間に視線だけで颯太を窺うと熱さなんて感じないみたいに普通に飲んでいた。
それを見ていると平気そうにも思える。味が気になって気も急いたので、冷ますのもそこそこに口をつけた。
「あちっ……」
間違ってぐびっと飲んでしまって、熱いを通り越して舌に痛みが走る。火傷してしまった。
「大丈夫? 貸して」
舌をちろりと出して冷ます僕を見かねて、颯太が僕の紙コップを手から取った。
颯太が僕の代わりに甘酒を冷ます。涙目でその様子を眺めていると、最後に一口飲んで頷くと僕に返してくれた。
今度はゆっくり口に運ぶ。火傷しそうな熱さはもうない。口の中に優しい甘さが広がった。
「……美味しい」
「でしょ」
颯太に向かって笑うと、頭を撫でてもらえた。颯太の手は僕のより大きくて、頼もしさをいつも感じる。
「ねぇ亜樹、このあと久志さんとこ先に行かない?」
「いいけど……なんで?」
「どうせ久志さんも行くし、ついでに乗せていってもらおうよ」
「久志さんがいいなら、それがいいな」
「よーし、決まり」
相太がコップの中身を一気に煽る。僕もちびちび飲んでいたのをくいってしてみた。
すると颯太に笑われる。
「無理しなくていいよ」
「……うん」
そう言われたのでゆっくりしたペースで中身を飲み干した。紙コップが空になった途端、颯太がそれを僕の手から抜き取って一緒にゴミ箱に捨ててきてくれた。
細やかな優しさにいつも惚れ直してばかりだ。母さんではないけど、よくこんないい人を恋人にできたと思う。
「ありがとう」
「あとで亜樹からキスしてね」
「……じゃあ取り消す」
「ずるいなぁ」
ぼやきつつ颯太は歩き出す。仕方ないから僕からいつも以上にくっついてあげた。
素早く腰に回った腕は笑顔で外した。
そして二人で来た道を戻り、鳥居をくぐる。朱色の大きなそれを振り返って見上げた。
僕のお願い、叶えてもらえるといいな。
お願いしますって思いも込めて、小さくお辞儀をしておいた。
「亜樹ー?」
「今行く」
石段の少し下にいる颯太に駆け寄った。
『颯太のお願いが叶いますように』
ともだちにシェアしよう!