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憂懼か百福か6

それぞれの皿が空になり、昼食も終わりに近づいていた時。 颯太のお父さんがカチャッと箸を箸置きに置いた。 その音に僕は視線をあげる。 「亜樹くん、颯太から聞いているかもしれないが、二人きりで話したい」 「……はい」 「じゃあ我々は先に失礼する」 こくりと喉を鳴らして席を立つ。 とうとう来た。 怖いことは言われないだろう。それはもう確認できた。でもなら何の話か。 「おれは久々に自分の部屋行ってみっか」 「俺も自分の部屋いるから」 「うん」 久志さんが立ち上がって、颯太は小さく声をかけてくれる。笑みを返してから僕は颯太のお父さんの後ろについていった。 食堂を抜けると階段を上って三階まで上がる。そして渡り廊下を抜けて、居住側にやってきた。 そういえば今日は黒服の人がいない。心を入れ替えてから人数を減らしたのか、休みを増やしたのか。 来るたびに変わっていることばかりだ。 颯太のお父さんの部屋は三階の端だった。 彼がドアを開けて、僕を招く。ドキドキしながら、部屋の中に踏み入れた。 中は広かった。颯太の部屋より大きい。 白と濃淡様々な茶色で統一されていてオシャレだ。 颯太のお父さんは部屋の真ん中にあるソファに僕を呼んだ。 低いテーブルを挟んだ向かいに座ると、真剣な視線の彼と目が合う。 「話というのは他でもない」 「……はい」 思わず喉が上下した。 「亜樹くんの呼び名のことだ」 「……はい?」 耳を疑う。 颯太のお父さんは至極真面目な表情だ。なら僕の聞き間違えなのだろうか。 「知っての通りわたしは亜樹くんと呼んでいる」 「はい」 どうやら聞き間違えではない。 「だが近しい人は呼び捨てにしたいという人間でな……。だから亜樹、と呼んでもいいだろうか」 「ぁ……」 わざわざこれを言うために僕を部屋まで連れてきてくれたようだ。しかも僕を近しい人と言っている。 いいのだろうか。 僕は颯太の家族に認められるのは嬉しい。でも恋人はよくても、その先を認めるかは別だ。 「……あの、いいん、ですか……。僕が近しい人……だなんて……」 僕が恐る恐る言えば颯太のお父さんは訝しげな顔をする。少し悩んでから何かを思いついたようだ。 「まさか颯太がもう嫌になってきたのか」 「えっ! 違います。そんなこと全くないです」 「なら、何故」

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