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憂懼か百福か9
ドスンッという衝撃で目が覚める。
「……うっ」
「……うぅ」
二人して似たような呻き声を上げて目を開ける。同時だったようで目の前の寝ぼけ眼と僕のそれが合った。
ぼやけた脳で今の状態を探る。
「あっ、颯太! ごめんっ……」
そして慌てて体をどかした。颯太の上から。
どうやらソファから落ちる時に僕が颯太の上にのしかかってしまったらしい。重たかったろう、落下速度も付与されるならなおさら。
「俺は全然平気。亜樹は怪我ない?」
「うん。颯太の上だったから……」
「俺が無意識に亜樹を守ったのかも」
「ふふ、颯太ならあり得そう」
かっこつけるなら僕こそ颯太を守りたいなんて思うべきなんだろうけど、現実的にこういう場合は無理だと判断できる。どう考えても体格的に僕が颯太を守れるわけがない。
「今何時ー……?」
「時計は……」
颯太が自分のカバンを漁りながらそう呟く。僕も僕で時計を探した。でも生活感のないもので颯太の部屋には時計がなかった。
「うわっ、もう七時」
「結構寝たね」
「夕食行かなきゃ……」
颯太がふわっと欠伸をする。それにつられて僕も欠伸をした。
欠伸がうつるって本当だと僕は思う。
二人で寝ぼけ眼を擦って、気持ち急ぎつつ食堂へ行った。
二人して昼寝でもしていたのかってにやにやしながら久志さんに聞かれたから、一緒にいたことがおそらくその場の全員にわかってしまった。
恋人同士だと割り切ってしまえば何の問題もない。はずだけど、僕は恥ずかしかった。
他は特に問題もなく、三人が僕を取り合って久志さんが笑うという昼と同じ構図が繰り広げられた。
楽しく夕食を終えた僕らは一旦それぞれの部屋に入った。しかし僕はその後すぐに颯太の部屋に行った。
ちょっと物を取りに行くためだけの帰還だ。
「数学わかんなかったら教えてね」
「お安い御用。じゃあ俺は国語を……」
「そんな事態にならないよ」
「ごめん、怒らないで」
僕はソファの前のテーブル。颯太は勉強机でそれぞれテキストを開いた。
僕らはしょっちゅう会ってるし、しょっちゅう互いの家に行っているけれど、何も勉強してないわけではない。受験生だって意識は僕だけでなく、颯太にだってある。
まあ颯太はきっと易々と受かってしまうのだろうけれど。純粋にすごいと思う。
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