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憂懼か百福か12
「ひぁっ……ンンッ、あぁんっ……」
結局なし崩しに僕は今抱かれている。
いつもみたいに本当は嫌じゃない、わけではない。バイトの時もそうだったけれど、実家でやりたいなんて思わない。
だから僕は快楽に弱いだけだ。しかも颯太は押し切るのが得意だから尚更。
そう考えると僕は屈する以外の道がないではないか。
「亜樹、集中して?」
「ひゃんっ、あっあっ……!」
「ていうかいつもより感じてる?」
「知ら……あぁんっ」
僕に覆い被さる颯太が大きく腰を回す。内壁を隅から隅まで刺激されて急激な快感が体を貫いた。
集中するなんて無理な話だ。
だってここは九条。この階で過ごす人は幸いいないけれど見回りの人くらいいるはずだ。でもその人たちがわざわざこちらに合図をくれるでもないから、僕らは気づかないまま。
いつ誰が来るかと気が気でない。
緊張していると神経が過敏になってしまう。だから決して颯太が言うような"感じる"ではない。
「あーき」
「ひぅっ……」
「本当に誰か来たらどうする?」
その時、コンコンッとドアをノックする音。
「……っ!」
ビクッと体を震わせて動きを止める。慌てて僕は口を両手で塞いだ。
壁は分厚いから今の声は聞こえていないと思う。それに電気は消して、月明かりだけでしているから居留守を使えばいい。
「はい」
「……!?」
なのに颯太はあっさり返事をしてしまう。眉間にしわを寄せ、驚愕の表情で颯太を見る。当の本人は楽しそうに口角を上げる。
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