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憂懼か百福か14

パチッと目を開ける。目の前には当たり前のように颯太の胸板。 これも慣れた風景だけれど。そしていつもなら擦り寄ったりするところだけれど。 僕は無言で布団から出て床に散らばっていた服を着る。 「亜樹、ごめんね」 僕の動きで目覚めたのだろう。颯太は真っ先に謝罪をしてくる。 その声をもちろん無視して、そもそも颯太を見ることなく僕はソファに座った。 冷静な状態になったら、怒り半分、意地半分といったところ。今度という今度は許さない。 ……しばらくは。 「あき〜、どうしたら機嫌治る? 本当にごめんね。調子乗った」 「……一度ならず二度までも」 ソファの背もたれ越しに颯太が抱きついてくる。僕は珍しく低い声で言い返してやった。 「二度あることは三度あるとも言うよね」 颯太はおそらく僕は照れて意地を張っているだけと思っているんだろう。でもその言葉でカチンときたからますます怒りが募る。 いや、今は何を言われても怒っていたかもしれない。とりあえず今は許す気が起きない。 それにこれくらい怒りを示さないと颯太は性懲りもなく、それこそ二度あることはの勢いで同じことを繰り返すはずだ。 僕は颯太の腕から抜け出して無言で部屋を出た。 昨日は殆ど使わなかった自分の部屋に入ると、持ってきていた服に着替える。 時間を見るとちょうど朝食の時間だったので一人で食堂に行った。 「亜樹ちゃん、はよ〜」 「おはようございます」 意外にも一番乗りは久志さんだった。 昨日と同じ席につく。 「颯太は?」 「僕は知らないです」 「珍しいねぇ、二人一緒じゃないの」 「そんなことないですよ」 「何かあったん?」 「何もないです」 久志さんは可笑しそうにくつくつと笑う。 別に誰にバレようと構わない。それに久志さんのからかいに言い返す気力も残っていない。 だって昨日は寝てないのと一緒だし、精神もすり減ったし。 特に会話もなく待っていると、俊憲さん、明恵さんと食堂にやってきた。颯太は最後に入った。 その視線を感じるけど僕は気づかないふり。すると隣の久志さんはまた可笑しそうに笑う。 「亜樹、慣れない場所だが、昨日はよく寝れたか?」 「はい。大丈夫です」 「そうか。ならよかった」 海山さんらメイドたちが朝食を用意する。昨晩の夕食は異なったけれど、今日の朝食は昨日と同じおせちだ。お雑煮もある。 「あーきちゃん。今日はおれがよそってやろうか?」 「はい。お願いします」 「……へぇ」 素直に久志さんにお皿を渡して、僕はお雑煮を食べ始める。 俊憲さんと明恵さんが心なしか悔しそうな顔をしているのが面白い。 颯太はというと無言で食べているようだった。流石にここで話しかけて両親に修羅場を見せるわけにはいかないと考えているのだろう。それは僕も思う。 それにもしこの場でその事実を利用して話しかけようものなら、僕は更に機嫌を悪くする。

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