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憂懼か百福か15

「ほらよ、亜樹ちゃん」 「……綺麗。ありがとうございます」 元からそういうセンスを持ち合わせてもいるのだろうけど、久志さんの盛り付け方はすごく綺麗だ。彩りとバランスがよく考えられている。 僕は思わず笑みを零しながら変わらず美味しいおせちを頬張った。 「颯太、なんだか今日は静かね」 「え? そんなことないよ」 「なら亜樹くんを独り占めする罪深さを知ったかしら?」 「……亜樹は俺のものだよ」 明恵さんの言葉に颯太は静かに返す。 胸がきゅんとなんか断じてしていない。 明恵さんはその返答に含みを持たせた笑みを浮かべた。そして僕と颯太をそれぞれ見る。 「可愛いですね、俊憲さん」 「ああ。そうだな。兄さんもそう思うだろう?」 「だなぁ。滅多にねぇことだかんな」 大人三人がにやにや僕と颯太を見つめるけど、僕は無言で朝食を食べ続けた。 そして一番最初に食べ終えた。他の人も食べ終える頃合いだし、朝食だから先に退席しても問題なさそうだ。 僕は挨拶をして立ち上がり、食堂から出て行った。 茶色を基調としたおしゃれな廊下を抜けて自分の部屋へ向かっていく。 「亜樹」 「…………」 「亜樹。ねぇ、亜樹」 途中から僕の足音に別のものが追加される。でも構わず進み続けた。 廊下も、階段も、ただひたすら無言。 そして自分の部屋に辿り着くとドアを開ける。そこまでついてきていた颯太の目の前で閉めてあげた。 不貞腐れた顔でソファに座る。 颯太はすぐにドアを開けて部屋に入ってきた。 「亜樹、どうしたら許してくれる? 俺、本当に反省してるよ」 颯太は僕の目の前に跪いて僕の頭を撫でる。僕はその手を外した。 「その手には乗らないもん」 「亜樹……」 颯太にその気がないのはわかっている。それに颯太の顔からして確かに懲りているようだ。 僕も僕でそろそろ颯太の体温が恋しくなってきた。殆ど時間は経っていないくせにこう思うなど、僕は本当に馬鹿みたいだ。 「……僕のカバンから指輪取ってきたら許してあげるかも」 「わかった」 たまたま昨日今日と指輪はつけていないけど、ちゃんと持ってきていた。 颯太は大人しく僕のカバンから指輪のケースを取り出す。そしてケースを開けると青が美しい指輪を手に取った。 「はい。俺のお姫様」 颯太は僕の手を取ると左手の薬指にはめてくれる。ついでに手の甲にキスを落とされた。 僕はつんと唇を尖らせたままソファから落ちる。落ちた先は颯太の胸。 「昨日みたいな悪ふざけ、もうしないで……」 「うん。わかった」 「……それと、」 「うん。抱きしめてあげる。それからキスもね」 何があっても離すまいと言うくらいぎゅっと颯太に抱きついて、その温もりを享受する。 颯太は言葉通り九条の家にいる間、手を出してくることはなかった。

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