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イシュー6

「あれ、これ……」 「へっ?」 小室くんは飽きてきたのかふと視線をずらし、その先のものに目を引かれたようだ。 よかった。飽きっぽくて、移り気な人で。一瞬気になったことを言うだけだから、そのことがうやむやでも気にしないっぽいし。 「リス好きなの?」 小室くんは椅子を引きずって僕の机に近づく。それから筆箱についているリスのキーホルダーを指先で突いた。 それを見て颯太に貰った時のこととか、リス関連の思い出が浮かんでくる。 「動物の中では一番好き、かな……」 「まじで〜。リスって可愛いよね」 「小室くんも好きなの?」 「可愛いなって思う。このクリンと丸まった尻尾とか、尻尾の大きさと体の比率とか」 小室くんはそう言ってキーホルダーの尻尾から体を指で辿る。そして顔まで行き着いた。 「あとこのクリクリした目……?」 「あー、そうそう! 渡来くん気が合いそう〜」 「あっ……だよね……!」 意見がぴったり合って気分が上がる。 男で可愛いものを可愛いと素直に認めてくれる人なんて滅多にいない、と思う。そもそも可愛いがよくわからないと言う人もいる。 颯太と可愛いの話すると別の方向に逸れてしまうけど、小室くんとなら楽しい話ができそう。 小室くんは雰囲気も怖くないし、緩い感じだから疲れないし。この調子で仲良くなりたい。 「ねー、渡来くんさぁ」 「おい、凛」 「あっ、たかちゃん」 更に何か続けようとした小室くんの背後から轟くんが姿をあらわす。たかちゃんと呼ばれれば眉間にシワを寄せた。 そうでなくても少し機嫌が悪そう。 「先に中庭行くって言っただろ、お前。探したんだぞ」 「あれ、そうだっけ。ごめん〜、渡来くん見つけたらすぐ忘れてた」 「この阿保。行くぞ」 「じゃあ渡来くん、またね〜」 「うん、また」 ひらひら手を振って小室くんは轟くんに引きずられていった。轟くんの手にはお弁当箱が二つ握られている。二人で仲良くお昼ご飯みたいだ。 教室を出ていく間もたかちゃんって呼ぶなのやり取りをして楽しそうだ。本当に仲良い。 「亜樹、おまたせ」 「あっ、颯太だ」 何やら用事があったらしい颯太がやっと帰ってくる。その時にほわっと温かい気持ちが胸に湧く。 「なに嬉しそうに笑って」 「颯太が来たなぁって」 「なにそれ、可愛いな。ほらお弁当食べよう」 「うん」 頭を撫でてもらえると更に温かさが増える。 小室くんと話す時も楽しかったし、仲良くしたいけど、やっぱりいつでも颯太が一番なんだなぁって実感した。

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