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雨塊を破らず3

修学旅行一日目のテーマが平和なので、次に向かうのも戦争に関する場所だった。女性までも戦争に駆り出され、亡くなったことを偲ぶための場所。 バスの中は公園を経たせいか粛々としたものになっている。それぞれが戦争を感じて、思いを向ける。そうできるのはいいクラスだと思う。 ただこのあとも戦争関連だと思うと、少し心がしんどい気もした。 「大丈夫? 亜樹」 「ん……平気」 「着いて早々戦争だと疲れちゃうよね」 「そうだよね」 颯太が肘掛けに乗せた僕の手を優しく握ってくれる。 肉体疲労の次は精神疲労。見るだけでこんな疲れる僕はやはり臆病なんだと思う。でもそれが僕なんだ。 程なくして目的地に到着した。バスから降りて、先生の指示を聞く。ここでもやはり各自自由行動だった。 見る場所といえば塔と資料館ぐらいらしい。 「なぁ、一緒に回らないか?」 轟くんが僕や颯太、松村くん、清水くんに声をかける。四人で顔を見合わせて首肯する。 二人など少人数で受け止めるには、まだ若すぎる。少しの疲労を緩和するには人数が多い方がいい。 考えることは同じだったみたいだ。 六人一緒にまず塔まで行った。 壕と白い石碑が柵に囲まれている。 沖縄では住民も巻き込まれた。人手が足りずに女の子まで戦闘員に駆り出されて、結果何人もの人が亡くなって。 戦争が生むのは混沌と絶望。 「これ終戦の翌年に建てられたらしいよ」 六人で横一列になって石碑を眺めていると清水くんが教えてくれる。 「随分早いんだね」 「数々の慰霊碑、慰霊塔の中でもかなり早い方らしいって」 「すごいな……」 皆の空気はどこか引き締まっている。小室くんはいつもの緩い喋りをする口を閉じているし、松村くんもすごく大人しい。 「人々の嘆きの近さ故に、死者を思う心も大きかった……」 静まり返る僕らの間にポツリと落ちる声。すごく真面目で静かで重い声だ。 出どころは……松村くん。 僕はそれが信じられなくて瞬きを繰り返す。それは他の人にも同様だった。唯一反応が大きくないのは清水くんだ。 松村くんは自分の呟きにハッと気づいたような顔をしてから、他の人の視線に気づく。 「ははっ、なーんてな!」 松村くんは恥ずかしそうに笑って頭を掻いた。

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