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雨塊を破らず4

普段はあんなムードーメーカーでおちゃらけたような人だけど、ちゃんと真面目な面もあるみたいだ。 僕の学校は学力順にクラスが分かれていて、僕のクラスは一番成績のいいクラス。だから松村くんだって頭がよくて、真面目なことを理解し、考えることができる。 なんら不思議なことではないのかもしれない。 「ほら資料館ってとこに行こ……」 「あなたたちは修学旅行生?」 松村くんの言葉が誰かに遮られる。振り返るとそこには二人の人がいた。 七十代後半くらいだろうか。それくらいの年齢に見える女性と、車椅子に乗った女性より高齢だろう男性。 それを観察して固まる間に颯太が一歩前に出た。 「はい、そうです。あなた方はもしかして……戦争経験者の方、ですか」 「ええ、そうよ。熱心に塔を見てるから、思わず声をかけてしまったの。ね、兄さん」 女性が車椅子を覗き込むと男性は「ああ」と言って頷いた。 そして女性が車椅子を押して塔に近づくので道を開ける。 二人は柵の前まで行って塔を見つめる。 「ね、私たちの話、聞いてくれる?」 少し振り返った女性の顔には、しわが浮かんでいた。男性はまだ塔を見ている。 僕たちはバラバラと、だが確かに頷いた。 その仕草を見て女性は静かに「ありがとう」と声を漏らし、また前を見た。 「私は戦争当時、幼かったの……。だから何が起こっているのかあまり理解できず、でもただ恐怖に震えていたわ……。姉が帰ってこない、兄も帰ってこない、どうしたらいいのって……」 「わたしはまだ若く、戦争に駆り出すにはちょうどいい年齢だった。もちろん兵士として参加し、その戦いの中で脚を失った」 女性と男性が訥々と語りだす。女性は塔を見つめ、男性は俯いて自身の脚をさする。 その声はしわがれ、経てきた時の長さを物語る。 その背を見つめ、声に耳を傾ける。 「何人もの仲間が亡くなっていくのを目の前で見たよ。だがいくら仲間が苦しんでいても、救うことなんてできない。自分が生き残ることで精一杯なんだ」 脚の上に置かれた手を彼はぐっと握る。その背は過去の痛みや残酷を背負い、丸まっていた。 「やがて戦争が終わって、わたしは生き残った。当時は不甲斐ないと思ったよ。なぜわたしだけ、脚を失っただけなのだと。あの苦しみの中で、何人もの苦しみの中で、わたしだけ」 実際に経験した人の言葉というのは、どんな文面、どんな史料より、とても強く心を揺さぶった。自分のことでもないのに、身勝手にも胸が痛んだ。 でもそれはきっと男性の声に悲痛がにじみ出ていたからなのかもしれない。 その時、女性が男性の肩に手をかけた。すると男性は丸まっていた背を伸ばし、同じように塔を見上げる。

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