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雨塊を破らず5
「長年苦しんでいたよ。だから話すことも拒否して封じ込めていた。でもあるとき気づいたんだ。経験者が少しでも戦争の悲惨さや辛さを伝えていかなければだめだと」
男性が自分で車椅子を動かしてこちらに向き直る。女性はそれを手伝った。
振り返った二人の表情は笑顔だった。幾重にもしわが刻まれて、口元は緩やかに弧を描いて。
女性にとっては姉を、男性にとっては妹を失った痛みを、背負って、乗り越えて、昇華してきた。そんな穏やかな笑顔だ。
「君たちが真摯な目で、少しでも戦争を感じようとしていたから、感動した。こんな年寄りの話を聞いてくれてありがとう」
「……いえ、そんな。こちらこそ貴重なお話、ありがとうございました」
やはり颯太が一番に言って、残りのメンバーもパラパラお礼を言っていく。すると二人は更に嬉しそうに笑みを深くした。
「立派な子たちね」
「こういう若い子がいるとは嬉しいものだ」
二人の褒め言葉にどう反応していいかわからない。互いに顔を見合わせて照れ笑いした。
そのあと彼らはまだ塔を見るらしいので、静かにその場をあとにした。
清々しいような、どこか寂しいような、不思議な気持ちで喋ることなく歩いていく。
「たかちゃん」
一番最初に声を出したのは小室くんだった。
「…………なんだよ」
「んーん。言ってみただけ〜」
せっかくの気遣いを無下にされて轟くんはどこか不満げ。でも小室くんは満足みたいで緩く微笑んでいる。
「れーんーくん」
「すぐ真似するなよ。俺は乗らない」
「けちだなぁ、蓮は」
清水くんは怒るけどやっぱりどこか楽しそうだ。四人とも面白い。
「亜樹」
隣を見上げれば優しい微笑みが僕を打つ。本当はノリに合わせて返事をしようとしていた。
「颯太」
でも気づけば愛しい人の名前を呼ぶ口がいる。
「この二人が一番甘い」
「ほーんとぶれないよね〜」
「うぉぉぉ! 最高かよ、夫婦!」
「煩い。黙って資料館向かえ」
ペチンッと松村くんを叩く音がその場に響いた。
それにクスクス笑いながら、颯太との距離を少しだけ詰めた。
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