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ホテルにて5

食事を終え、自分たちの部屋に戻ってきた。 「美味しかったね」 「そうだね」 二人きりになった途端ふにゃっと笑う亜樹の可愛さは筆舌に尽くしがたい。 そこで食事前に亜樹とキスしたあたりから考えていたことを実行することにする。 「亜樹、風呂……」 「ああ。颯太先に入っていいよ」 「違うよ。風呂一緒に入ろうって言おうとしたの」 「え? い、いいよ、そんな」 俺の笑顔に亜樹はボッと顔に火をつける。逃げようとした亜樹の腰を抱いてそのままお風呂場へ拉致する。 「や、颯太。だめだよ」 「いいからいいから」 きっとキスを清水くんに阻止されて、やっぱりこういうことをしてはいけないと思ったのだろう。 流されまいと心も体も懸命に抵抗している。 精神面は置いておいて、身体的な力は当然俺に敵わないから、俺も亜樹もあっさり服を脱いでしまう。 そして狭い浴槽に二人で窮屈に収まり、シャワーカーテンを閉めた。 「颯太、だめだって言ったのに……」 「いいじゃん、洗いっこしよう」 亜樹は恥ずかしそうに体を隠しながら俺を見上げる。その瞳はうっすら涙を浮かべていて、俺はますますやめる気がなくなった。 「早くしたら早く終わるよ」 「……わかった」 ニコッて笑えば亜樹は渋々頷く。 いや、俺の罠に自ら飛び込んだというところだろうか。本当は亜樹も恋しかったんだろうし。 「はい、まずは頭」 シャワーヘッドを浴槽の床に置いてお湯を出す。それから備え付けのリンスインシャンプーを手に取った。 手を濡らしてからシャンプーを出すと、亜樹の頭に指を差し入れる。 亜樹もシャンプーを出して俺の頭に手を伸ばした。しかしうまく届かない。 「颯太しゃがんで」 「脚辛いなあ」 「でも……届かないの」 「うん。わかった」 亜樹の困った顔が見られたから脚の辛さなどへでもない。 少し脚を折ると亜樹の手でも容易に俺の頭に届く。そうしてお互いの頭を洗い出す。 シャワーのシャーという音と指のシャカシャカという音が明るい風呂場に響く。亜樹は俺の頭を一心に見つめて一生懸命手を動かしていた。 ふと悪戯心が湧く。 「そろそろ流そっか」 「うん」 水の出続けるシャワーを取り、亜樹の顔に向けた。 「わっ、ちょっ、やめ……」 亜樹は頭を泡だらけにしたまま水から逃げる。俺を振り切ったあとに半笑いで睨んできた。

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