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第7話 2-4
双子酒の事故から10日程が経っていたが、カツラはことの経緯をまだタイガには話せていなかった。もうこのままでも大丈夫なのではと思っていたところにフジキが現れた。
「カツラ君。今、ちょっといいかな?」
フジキはわざわざ『desvío』の仕込み時間に合わせて店の前でカツラを待ち伏せしていたようだ。「絶対にあの件だ。」とカツラは確信する。そして逃れられない運命に向き合うことになった。
「この間は本当に申し訳ない。すまなかった。」
フジキはそう言ってカツラにむかって深く頭を下げた。
「フジキさん。やめてください。あれは俺のミスでもあるんです。」
「え?」
「あの瓶には双子酒の酒の方が入っていたんです。俺が知らない間に中身が変わっていたようで。すみません。匂いで気付くべきでした。元の酒はとてもアルコール度数が高いんです。フジキさん、大丈夫でした?」
カツラの説明を聞き、フジキも納得する。フジキは酒に強い方ではあるが、あの酒は一口飲んだだけで強烈な印象があった。今回はこの自分の酒の強さが仇になったということか。
「それでも、嫌な思いをさせてしまったから。」
「大丈夫です。それよりフジキさん、カリンさんに一度会いに行った方がいいと思います。
俺も身に覚えのあることだから。」
カツラは研修中にタイガへの恋しさのあまり誤ってトベラとキスしたことを思い出していた。フジキさんはかなり追い詰められている。
「そう...だな。いくら酔っていたとはいえあれは。」
2人の目が合う。カツラがゆっくりと目を逸らした。彼の唇はいつも美しい赤みを帯びている。その唇に侵入し貪ってしまった。この瞬間実感し、フジキは自らカツラ会いに来たにもかかわらずとても気まずい気持ちになった。しかし自分を責めることなく心配までしてくれるカツラの人柄に「美しい上にこれでは...。タイガが惚れるはずだ。」そんな思考に至っていた。「もしカリンに会わずにカツラに会っていたら自分もその内の一人になっていたかもしれない。でも俺にはカリンがいる。」フジキにとってやはりカリンは誰とも天秤にかけることのできない唯一無二の存在であった。
「カツラ君。タイガにはもう話したのかい?」
「いや...。それがまだ。」
「俺から話したほうがいいのならそうするし。カツラ君のやり方に合わせるから。」
「どうしようかと。俺とフジキさんとでカタがついているので、このままでもいいような気もします。」
「しかし、なにかのきっかけでタイガの耳に入ることがあったらまずくないかい?あいつの性格からして。」
フジキの言葉には妙に説得力がある。確かにタイガの耳にもし入ったらまた面倒なことになりかねない。
「そうですね。俺から話します、タイガには。もしやばくなったらフジキさんに助けてもらうかもしれませんが。」
「それは構わないよ。遠慮なく言ってほしい。」
フジキと話せてよかった。あれはただの事故であり、お互いなんの後ろめたさもなく解決できたのだから。あとはカツラがタイガに打ち明けるだけである。「どう切り出すか。タイガの反応が読めない。」カツラは恋人に気を使い深刻な話をした経験がなかった。こんなこと今までなら、「だからなに?気に入らないのならさようなら。」そうしてきた。しかし、相手がタイガであるからそうはいかない。彼はやっと手に入れた自分から欲した大切な恋人なのだ。
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