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第11話 2-8
美しく優秀なカリンは男性からもよく誘われるが、最近では彼女はそんな誘いには一切つき合わず仕事に没頭していた。過去には数人と付き合ったことがあったが、みな束縛が強く最後には「俺か仕事、どっちがだいじなんだ。」と同じようなセリフを吐かれ、あっけなく関係は終わってきた。
こんなことを繰り返すうちに、最初に心を揺さぶられた男でないと無理なのではとカリンは思うようになっていた。思春期に一時 だったが、夢のような時間を過ごしたカリンの初恋の相手、フジキ。彼女はいつもフジキと他の男を比較していた。
こんなふうに思っている時にフジキに再会した。まさかフジキに再会できるとは思っておらず、彼から当時同じ思いだったと打ち明けられた時は本当に嬉しかった。
ただ、彼女には夢がある。フジキは理解を示してくれるのか?
「構わない。目標に真っすぐむかっているカリンが好きだから。」
フジキはこう言ってくれた。やはり彼は違う。フジキは自分の運命の相手だとカリンは思った。
カリンは幼い時から目指していた医者になれ、今ようやっと関わりたいと思っていた研究チームから声をかけてもらった。迷うことなく参加する意思を伝え早速▼▼▼へとやってきた。
あれから一月近くが経ち、カリンは毎日が充実していた。フジキはカリンが約束を破っても彼女を決して責めなかった。フジキには申し訳ない気持ちがあったが、自分の夢を優先してしまう。それがカリンであった。
ある日、フジキから電話があった。
「カリン、調子はどう?」
「フジキ!めずらしい。電話してくるなんて。」
「うん、ちょっと話したいことがあって。」
「え?」
フジキがカリンにこんなふうに電話することは今までなかった。「まさか別れ話?」カリンはフジキの次の一言に意識を集中した。
「どうしても会いたくて。」
「カリン!」
呼ばれた名前は電話越しにではなく直接耳に届いた。振り返ると、フジキが立っていた。
「会いに来てしまった。」
「フジキ!」
フジキがこんな行動をとるなんて。カリンは愛しさと嬉しさがこみ上げ彼に思い切り抱きついた。フジキの優しい匂いに包まれ、カリンは久しぶりに会った恋人の唇に自分の唇を重ねた。
「今夜は大丈夫だったのかい?こんなに早く帰れるなんて。」
「今日は偶然にも大丈夫な日だった。私が仕事を優先するのは知っているでしょ?」
二人でベッドで抱き合いながらゆっくりと話をする。カリンはフジキの腕枕でくつろぎ、彼は彼女の黒く長いサラ髪を手櫛でなんども掻きあげている。
「俺は休みをとってきたから、カリンは気にせずに仕事をしてくれ。同じ空気を吸っていられるだけでいい。」
「どうしてフジキはそんなに理解が深いの?」
カリンが顔を上げフジキをマジマジと見つめた。
「寝ている間に少しいたずらするかもしれないけど。」
「もうっ。」
二人はキスを繰り返す。
「そう言えばちょっと事故があって。」
「事故?」
「おれの後輩いるだろ。」
「真面目過ぎる子?」
「そう、あいつに恋人ができたんだ。」
「そうなの。相手は大変そう。後輩くんが自分と同じものを求めてしまいそうで。私だったら即お別れね。」
カリンはクスクスと笑っていた。
「まあ、相手は年上の彼なんだ。」
「そう、男性なら大丈夫な感じ?」
「そうでもない。つき合う前にかなりもめていたというか、大変そうだった。」
「やっぱり?」
「その彼なんだが...。男性だがすごく綺麗でね。黒い髪で。まるで昔のカリンみたいな雰囲気なんだ。」
カリンは目を丸くした。
「え?事故ってまさかフジキ、その彼と寝た?」
「違うよ!ただ、酒に酔ってカリンと間違って無理やりキスをしてしまった。本当に彼には申し訳ないことをしてしまった。」
「なにそれ。フジキ、面白すぎっ。」
カリンはけらけらと笑い出した。まさかこんなに笑われるとは。
「フジキ、ぜひ昔の私と似ているその彼に会ってみたい。今度紹介して。」
「ああ、そうだな。」
「でも大丈夫なの?そんなことが真面目な後輩くんにバレたら。」
「彼は自分で伝えると言っていた。手が付けられなくなったら助けを求めるかもと。」
カリンはフジキをジーっと見つめて言った。
「その彼、ただですんでると思う?」
「え?」
「まさか。それは...。」
「お仕置きとか、されているんじゃない?」
フジキはタイガのこういうことに対する潔癖さと、タイガには申し訳ないが意外だがカツラのほうがタイガにかなり惚れていることを思い出した。「タイガがそっけなくしていたとき、毎朝会いに来ていたもんな。」カツラはタイガに許しを請うためならなんでも受け入れそうな気がした。
「なにかあるようだったらすぐに助けてあげて。」
カリンの読みはあながち間違いではなかった。
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