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第22話 シュロのつぶやき

 今日はこの間まで『desvío』で働いていたキリが店に来る日だ。その日彼はそのまま俺の家で泊まることになっている。 いつも一人で晩酌をしているが、今夜はキリと楽しく酒が飲めそうだ。 時計を確認するともうすぐ出勤時間だ。今日は平日だからそこまでは忙しくならないだろう。 いつも通り、飼っているインコのウリちゃんに微笑み「行ってきます」とあいさつをした。 「シュロ、いってら。ピピッ。」  店に着くと早くも新人のウィローが来ていた。彼はとても真面目で仕事の覚えも早い。ただ人が良すぎて客や他の者に頼まれたことをおろそかにできず、仕事量が自然と増えていた。しかしキリの代わりが務まるようになるのも時間の問題だろう。 「シュロさん、おはようごさいます。」 「おっす。」 「今日ですね。キリが来るのは。」 「うん。店が騒がしくなりそうだ。」 「おはよう、シュロ。ちょっと奥でこの件、カツラが出勤したら一緒に相談して。」 店長にそう言われ、頭の中の今日のやるべきリストに入れる。 「おっす。了解っす。」 しばらくするとあいつが来た。 「おはようございまぁす。」 宇宙人だ。俺は絶対にそうだと確信していた。でないと同性であの姿は説明がつかない。人間離れした翠の瞳がそれを物語っている。いつか本性をさらけ出すのではといつでも対応できるように心構えをしている。店長たちは俺が守らなければ。 「シュロ、店長から聞いた?」 「うん、これ。」 店長から預かっていた資料を手渡す。来月の繁忙期のシフト調整だ。宇宙人兼カツラと相談していると懐かしい声がした。 「みなさーん、お疲れさまです。あっ、カツラさん、シュロさんもお久しぶりです。」  店の営業時間になりキリが客として酒を(あお)る。キリはその日はなんだか酒の進みが異常なペースだった。俺は早上がりだったのでキリと一緒に自宅に帰った。 「ただいま、ウリちゃん。」 「ピッ、シュロ。」 「えー!シュロさんインコ飼ってるんですか。かわいいな。」 「妹のを預かってるんだ。今寮生活だから。ウリちゃんだ。かわいいだろ。」 「いやぁ、癒されますね。」 ウリちゃんの可愛さが分かるとは、キリはいいやつだ。買ってきた酒をグラスに注ぎ仕切り直しで乾杯をする。 「シュロさん、お疲れ様です。」 「お疲れ。」 キリは一気に酒を煽った。こんな飲み方をするやつだったかと心配になる。 「どうした?なにかあったのか?」 実家の仕事がうまくいっていないだろうか?先輩としてかわいい後輩の相談に乗ってやらねば。そう思い質問するとキリから質問で返された。 「シュロさんって、カツラさんと同期なんですよね?」 なんだ?あの宇宙人のことか? 「あいつの方が少し早い。募集がかかる前から店に入っていたみたいだ。」 「えっ!そうなんですね。でも付き合いは古いですよね?」 「ま、仕事の上ではな。」 「カツラさんって、浮いた話聞かないですよね?それこそ客や仕事仲間から言い寄られることがあっても全部断っていたし。」 「あいつとなにかあったのか?」 トロンとした目でグラスを見つめながらキリが口を開いた。 「つき合っている人のこととか話さないんですか?」 「仕事以外の話はしたことはない。」 宇宙人にそんなことをしたら弱みを握られてしまう。日頃からそれは気を付けていた。 「俺...。抱かれてもよかったなぁ、あの人になら。もっとちゃんと気持ちを伝えたらよかった。」 そのままキリはテーブルにつっぷし眠ってしまった。「抱く?」今キリが言ったことに理解が追い付かない。まさかあいつはキリになにかしたのだろうか?急ぎキリの肌が見えている個所を確認する。傷などはなかった。 翌日、キリは昨夜話したことなど忘れてしまったのかいつも通りの様子で家をあとにした。 「シュロさん、お邪魔しました。今日からは友達のところに厄介になるので。また遊びに来ますね。」 「うん、またな。」 俺も仕事に行く用意をそろそろしなければ。 「ウリちゃん、今日も行ってくる。」 「シュロ、いってら、ピピピ。」 店に着くとウィローとあいつが一緒にいた。ウィローに酒の説明をしているようだ。 「シュロさん、おはようございます。」 「おはよ。」 「おっす。」 昨夜のキリの言ったことが気になりあいつをそっと観察する。 「なに?」 「えっ?」という様子でウィローもこちらを見る。さすが宇宙人だ、するどい。気をつけなければ。   「いや、なんでもない。」  今日は店長が休みだったがあいつがいたので店は順調に回った。客達がはけ、カウンター内を掃除していると背後から声をかけられた。全く気配を感じなかったので心臓が跳ね上がる。 「シュロ、俺になにか言いたいことあるんじゃないのか?」 俺は格闘技には自信があるが、こいつの気配だけはつかめない。きっと不思議な力で気配を消しているのだろう。 「いや、ないけど。」 視線を合わさず答える。瞳をみたら変な術をかけられそうだ。 「今日は店を早く閉められそうだから今からウィローと少し飲みに行くんだけどお前も一緒にどうだ?今まで行ったことないよな?」 「いや、俺は。」 「ホリーとはよく行ってるじゃないか?」 「いや。」 「おい、シュロ。」 まさか腕を掴まれるとは思っていなかったから、うっかりあいつの瞳を直視してしまった。美しい鮮やかな翠。吸い込まれそうな美しい形をした瞳に一瞬目を奪われた。「やばい、パワーを吸い取られる!そう危機感を感じ咄嗟に腕を振り切り逃げるようにその場を立ち去る。 「おつかれっ。」 一言そう言い全力で立ち去る。 「え?あっ、お疲れ。」 「シュロッ、シュロッ。ピッ。」 「ウリちゃん、今日はやばかった。もう少しで魂を奪われるところだった。」 今日みたいなことが起きないようにあいつには極力近づかないようにしようと俺は固く誓った。

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