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第28話 4-6
〇月〇日夕刻、とあるレセプションホールを貸し切って懇親パーティーが開催された。
男性はスーツ、女性はドレスを着用し華やかな雰囲気だ。
「タイガ、久しぶりだな。」
一人入口近くに佇んでいるとフジキがタイガに声をかけてきた。
「フジキさん!お久しぶりです。」
フジキは長期休暇の後そのまま出張に入り、タイガは彼と会うのは久々だった。
「今夜はカツラ君は?」
「店が忙しくて無理でした。」
「週末だからな。」
タイガはフジキの口からカツラの名前を聞き、思わずフジキの口に注目してしまった。カツラの唇と深く重なった...。
「どうした?」
「いえ。」
「タイガ、カツラ君から聞いたか?」
例の件をフジキから聞かれるとは思っておらず、タイガは返答に困った。
「まぁ、はい、聞きました。」
「すまなかった。」
タイガは真面目に謝るフジキをこれ以上責めるつもりはなかった。カツラとも、このことはきっちり解決している。
「フジキさん、人間ですから誤りはあります。カツラから聞いてますから大丈夫です。そんなことより、恋人がいたなんて聞いてませんでしたよ。」
「ははは。全然会えていなかったから。今度紹介するよ。」
なんだかフジキの空気が柔らかくなったようにタイガは感じた。長期休暇はうまくいったようだ。
「楽しみにしてるんで。」
「カツラ君にも会いたがっていたよ。あの事故のこと話したら大笑いされてしまって。是非会いたいって。」
フジキの話から恋人の女性の性格の良さがなんとなく伝わった。フジキが幸せそうでタイガは良かったと素直に思えた。
「タイガ!」
声をする方に目を向けるとミモザがこちらに手をふりながら向かって来た。彼女は胸元が大きく開いた黒いドレスを着ていた。体のラインがよくわかるドレスだ。髪はハーフアップにまとめており、いつもの雰囲気とは全く違って見えた。
「こんばんは。」
ミモザは物怖じすることなくはっきりとした声でフジキに挨拶をした。
「こんばんわ。」
「フジキさん、同期のミモザです。ミルタの研修で一緒だったんです。ミモザ、フジキさん。建築部門の課長。よくしてもらってるんだ。」
「ああ、君か。すごく優秀な子が来たって噂聞いてるよ。」
「はじめまして。よろしくお願いします。」
「それじゃ、タイガ。俺はお偉いさんに挨拶しに行かないといけないから。またな。」
フジキが立ち去ってミモザはタイガにより近づき聞いて来た。
「彼女は?どこにいるの?」
「今日は都合が悪くて来れなかったんだ。」
「え?そんなことってある?」
「週末は忙しいからもともと声をかけてなかったんだ。」
ミモザの口角が意地悪に上がる。
「ほんとにつき合ってるの?あっ、そろそろは発表みたい。行きましょ。」
そう言ってミモザはタイガに腕を組んできた。豊満な胸を少し押し付けられているように感じる。しかしタイガはなんにも感じなかった。タイガはカツラに同じことをされる方が胸が高鳴るのだ。
普段関わりのない社員たちと話をできるのは楽しかった。ミモザも今夜は一人らしくタイガと一緒に過ごしていた。ただの同期としてなら全く問題はないのだが、時々感じるミモザからの好意に疲れてしまう。彼女は物事を良いように考える癖があるのかもしれない。はっきりパートナーがいると伝えているのに聞き入れないミモザをタイガは理解できなかった。
「ねぇ、ちょっと外の空気吸いに行かない?疲れちゃった。」
確かにそうだと思いタイガはミモザの提案に従った。暖かい季節が訪れようとしているのか、外は過ごしやすい気温だ。噴水の周りにおしゃれなテーブルとイスが何卓か置かれている。その内の一つに腰をかける。彼女は思い切り背伸びをした。大きく開いた胸元から今にも乳房が溢れ出しそうだった。タイガは目をそらし周りの美しいガーデンに目をやる。
「タイガって、くそ真面目よね?」
「え?」
ミモザは片肘を立て頬を支え笑みを浮かべている。彼女は自分に自信がるのだろう。仕事は男より優秀、知的な顔立ちに長いダークブラウンの髪は結い方を変えると彼女の印象を妖艶にも可憐にも変化させる。すらっとした体はメリハリがあり、普通の男ならこれだけで簡単に落ちるに違いない。ただミモザはその自信のためとても強いのだ。相手が女性になにを求めるかでうまくいくかどうかは変わってしまうだろう。
「秘密教えてあげようか?」
「秘密?なんの?」
ミモザは内緒話をするように手招きをした。タイガが話を聞くために近づくとミモザの唇が自分の唇に触れた。次の瞬間には唇を吸われ、はっとなりミモザを軽く突き放した。
「タイガ、そんな顔しないでよ。よかったでしょ?」
勝手にキスをしてきてなにをふざけたことを言っているのかとタイガはミモザに腹が立った。すぐに立ち上がりその場を後にする。
「もぉ、うぶなんだから。かわいい。」
とてもこの後このまま懇親パーティーにいる気にはなれず、タイガは足早に会場の出口に向かった。しばしその場に立ち止まり早くなった呼吸を整える。数分後、ぼーっとしたまま再び歩き始めた。
「タイガ。」
出口までの廊下でタイガはフジキに声をかけられた。
「どうしたんだ?顔色悪いぞ?」
「ちょっと具合悪くなったんで帰ります。」
「そうか、気をつけてな。」
フジキに軽く会釈して出口に向かう。そこには着飾った女性たちが集まっていた。彼女たちは興奮した様子で黄色い声でなにやら騒いでいる。「モデルなの?」、「うらやましい」、「誰の彼氏?」など口々に話しているようだ。大方 、誰かの連れの話だろう。タイガは今夜のことでますます女嫌いに拍車がかかりそうだと思いながら帰宅の途についた。
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