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第59話 9-1

「タイガ、久しぶりだな。」 聞き覚えのある声に振り向くと、目にとびこんできたのは自信満々の笑みを浮かべたかつての大学時代同期のハチスだった。 「どうしてここに?」 ここはタイガが働く職場だ。ハチスはタイガと違う大手企業に就職したはず。 「俺、転職したんだ。二年前からこの会社で働いている。」 「そうか、それは知らなかった。」 ハチスがタイガに肩を組んで内緒話をするように話し続けた。 「お前、最近すごいらしいな。難しい案件もばりばりこなして。顔つきも変わったぞ。」 「はは、そうか?」 このハチスという男は学生時代からなぜかタイガに敵意むき出しなのだ。彼に絡まれる前にこの場をさっさと立ち去った方がいいとタイガは思い始めていた。 「女だろ?どんないい女ものにしたんだ?俺にも紹介しろよ。」 「そんなことあるわけないだろ。俺、急いでるから。」 なんとかハチスをやり過ごしたが、ハチスが今回の異動でここに配属になったのなら、今後度々顔を合わせることになると思うとタイガは憂鬱になった。  翌日は休日でタイガは珍しくカツラと外出をしていた。なんでもあのトベラの甥っ子に誕生日プレゼントを送ってやるらしい。カツラはやつの甥と仲良くなり、メールまでするようにまでなっている。それで、誕生日プレゼントをせがまれたとのことだ。 「あれぐらいの年の子はなにをやれば喜ぶんだ?」 カツラはプレゼントにいいものがさっぱり思い浮かばないらしく、タイガに助けを求めた。 「さぁなぁ。ぬいぐるみは?」 「さすがにそれは。」  カツラと二人、おもちゃ売り場でプレセントになるべきものの候補をあげながら歩いていく。タイガはなんだか二人の子供のものを選んでいる気分になっていた。カツラはそういうことは考えているのだろうかという思いがふと頭をよぎった。「俺はできたらカツラに似た子供がほしい。代理出産に依頼したら可能なはずだ。」そんなことを考えていたら、カツラに突っ込まれてしまった。 「タイガ。お前、こういう場が好きなのか?」 「え?」 「さっきから顔がにやけてるぞっ。」 カツラに頬をつねられ、顔に出ていたのかとはっとする。 「いやぁ、ははは。」 「俺、この辺見るから、タイガは向こうでいいのないか見てきてくれ。時間がもったいない。」 「え、今日は休みだろ?時間は...。」 そう言いかけてタイガはカツラの目を見て彼が考えていることを理解した。「俺とヤル時間がなくなるから?」そんなことを愛しい恋人から遠まわしに仄めかされたら、カツラの意見を拒否することはできない。 「わかった、見てくる。いいのあったら連絡するよ。」 タイガは素直に答え、カツラと別行動を開始した。 「タイガじゃん、最近よく会うな!」  声を聞いた瞬間、マジかと思い振り返るとやはりハチスだった。「休みの日にこんな所で会うとはついていない。」長話を避けるため、適当に話を合わせる。 「そうだな。ハチスどうしてここに?」 「俺は姉貴のガキの面倒だ。」 そう言って顎であっち側を見るように差し示した。ハチスが指し示したほうには幼稚園ぐらいの男の子がおもちゃで一生懸命に遊んでいる。ハチスが小さな子供の面倒をみているなんて意外だった。 「かわいい子じゃないか。いくつなんだ?」 ハチスは指で六と示した。 「実家に戻った途端これだ。姉貴は悠々と気分転換さ。それにしてもお前、どうしてこんな所に?まさか彼女と来てるのか?」 彼女ではないが、恋人と来ている。そんなことを言えばハチスの興味を引くことになると思ったタイガは、さてどうやってやり過ごそうかと曖昧に答えながらなんとか仕事の話に持っていき、しばらく立ち話をしていた。すると、ハチスがキョロキョロしだした。 「どうした?」 「あいつ、どこ行った?ちょっと目を離したすきにすぐにいなくなる!」 「えっ?」 タイガも慌ててハチスの甥の方に目をやると、確かに彼の姿は忽然と消えていた。 「くそっ、ナラっ、どこ行った?」 「俺も一緒に探すよ。」 「ああ、悪い。」  今日は休日で人が多い。ハチスが焦るのも無理はない。タイガはハチスと一緒に店の中をせわしなく移動し迷子のナラを探し続けた。

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